働き方やライフスタイルが多様化し、自分らしい生き方を選ぶ時代。人生のポジティブな選択肢の一つとして「離婚」を考える人も増えてきました。とはいえ、離婚後に生活が想定外に苦しくなることは避けたいもの。人生の再出発の心構えについてお金をテーマに、離婚カウンセラーの岡野あつこさんに聞きました。第1回は「離婚前の準備編」。夫婦が婚姻期間中に築いた財産を公平に分けるには、相手(配偶者)の資産状況を把握していることが前提。本来は分与すべき財産を相手に隠され、受け取れなかったケースもあるとか。一体、どういうことか――。
日本を代表する離婚カウンセラーで、これまで約4万件の離婚相談を受けてきた公認心理師の資格を持つ岡野さんは、離婚についてこう話す。
「離婚するかどうかは『損得』で考えること。離婚したあとに損をしないか。生活は大丈夫か。まずはそこから考えることです」
そのためにはどうすればいいか。
「夫婦仲が悪くないときからお金の管理と把握をし、離婚をするしないにかかわらず、将来のお金のシミュレーションをしっかりしておくことです」
「あなたには一円も払えない」
こんな例がある。
「自営業の歯医者を夫に持つ妻の話です。クリニックは連日長蛇の列ができるほどの人気で、夫には相当の稼ぎがありました。妻は財産分与で億単位の金額が見込めると考えて離婚を決意。しかし、実際には財産分与はゼロ。夫が逃げ切ったのです」
逃げ切り、とはどういうことか。
「夫のクリニックには社員はおらず、妻が夫の仕事を支えていました。歯科医としての稼ぎは事業収入として扱われるものの、社員がいなければ、夫婦の共有財産としてみなされる可能性が高いそうです。つまり、離婚すれば財産分与の対象になることが多い。しかし夫は『治療用の機械がとても高かった。借金だらけなんだ』などと領収書を提出し、『財産分与できる金がない』と主張したんです。それはおかしい、と妻は朝から夜まで患者の数を数えて『これだけの患者さんが来ているのだから、かなりの売り上げがあるでしょう』と詰め寄りました。しかし『いやいや会社は借金だらけ。あなたには一円も払えない』と夫。結局、夫から逃げ切られ、妻への財産分与はゼロとなった。かなり前の事例ですが、当時は本当に驚きましたね。えっ、ここまでするんだって。夫が一枚も二枚も上手だったんです」