「低迷は不景気に一因」


 とはいえ昨年秋、バラエティー番組のテコ入れとして「バラエティー・ビッグバン」とぶち上げたが、一時期のようなそれほどの勢いはない。
 だが、北林由孝(きたばやしよしたか)編成局長もこう自信のほどを示す。


「不景気になると人間は保守的になる。そんな状況ではうちのような新しい、番組は受けない。景気が上向きになるとありがたいのです。いろいろな企画も山積みになっている。いまは出すタイミングを狙っているだけです」


 こうしたフジの自信を支えるものが、好調なポジショニング調査の結果である。
 ポジショニング調査というのは局のイメージ調査。視聴率で日テレに水を大きく開けられているフジだが、視聴者の局のイメージはダントツでいい。「世の中の動きに敏感」「新しいことをやっている」などのイメージは他の局を圧倒的に突き放している。
 しかし、イメージだけでは意味がない。視聴率競争の原動力となるバラエティー番組は、日テレの得意とするところになっているが、もとはといえばそれはフジテレビの得意技で、フジテレビ全盛時代の原動力になっていた。
 ドラマは、もともとTBSのお株を奪ったものだ。


「それこそTBSの系列下にいた有能なディレクター、プロデューサーをフジ系列下の制作会社に移籍させて開花させたもの」(前田編成部長)


 ただ、ダイナミックな動きはいまのところない。実力とイメージの乖離(かいり)は広がっていないだろうか。
以前からフジテレビ転落の大きな理由と言われたのが人材難。全盛期のスタッフたちがいたため、後進が育たなかった。また当時の名プロデューサー、名ディレクターが現場を退いてからも、社の幹部となって、色々と制作現場に口を出して、うまくいかなくなった、といわれる。


 フジ側は、人材難の問題は広く外部プロダクションと協力しており、問題はないという。しかし、ある下請け制作会社のプロデューサーは、最近のフジの危機を、社員の口から、
「なくはないんだけどね……」
と聞くことが多くなったことだという。
「なくはない……」というのは「まあいいんだけど、よくわからない」という意味の丁寧語らしい。
「勢いのあるテレビ局の担当者は、企画を見せたときに、その場でいいのか悪いのかをハッキリ判断できる。ダメな場合は何がダメなのか、具体的に指摘してみせる。そこがわからないというのはつまりセンスがないということ。こういう言葉が出るとその局はそろそろ衰退していく。十年前、低迷していた日テレがそうだったけど、いまは逆ですよ」

「反撃ない」と日テレ


 別のプロデューサーもいう。


「ノリがいいのは日テレ。フジテレビの方が『フジはこういう色です』と守りの姿勢が目立つ。制作費の出し方も日テレの方がいいというのが評判だ」


 日テレ側はどうみているのか。


「最近のフジは反撃してこない。強力な番組をぶつけてくることもなく、うちの『無血入城』といった感じがします」


 というのは日テレの萩原敏雄常務取締役編成局長だ。ほかでもない、日テレにとってはいまも最大のライバルがフジなのだ。
 日テレ復権の最大のポイントは氏家齊一郎社長である。九二年に読売新聞出身の氏家社長が就任して命令したことは一つ、「なにがなんでもトップを取れ。トップをとればあらゆる問題は解決する」だった。


 視聴率獲得の目標のため、あらゆるドラスティックな改革が行われた。氏家社長は現場からの提言を即決即断で判断を下す。数字という結果だけを求め、信賞必罰を徹底した。
 さらに、日テレの現場はフジについて徹底的に研究した。吸収できることは吸収したことが視聴率トップにつながったのである。
 象徴的な例が構造改革。
 全盛時代のフジはドラマ、バラエティー、スポーツなど番組制作部門を編成部門と統合した「大編成主義」をとっていた。部局を超えて、自由な番組作りができるというのがこの組織の趣旨で、この大編成局がフジテレビ成功の大きな要因とされていた。日テレもこの方式を採用した。
 もう一つは、バラエティー番組の主導権奪取だ。
 バラエティー番組はフジ全盛時代のお家芸でフジがあまりに強かったので、タレントを引っ張ってくるのは困難な状況だった。
 日テレの小杉善信編成部長はこう語る。


「徹底したのが企画主義。フジのバラエティーはタレントをひっぱってくる『キャラクターショー』ですが、うちにはそういう人脈も高額なギャラもない。企画重視で、うちの番組は誰が司会でもそこそこ受けるようになった。タレントにとっても本当にメリットがあるのは自分の出演した番組がヒットすることです」

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