話題のドラマ「ホットスポット」の脚本を手掛けるバカリズム
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 1月12日に始まったドラマ『ホットスポット』(日本テレビ系)が話題になっている。富士山麓の田舎町で暮らすシングルマザーの遠藤清美(市川実日子)が、ひょんなことから宇宙人と遭遇してしまったところから始まる日常系SFコメディだ。宇宙人が違和感なく一般人の日常に溶け込んでいる様子が、静かなおかしみを醸し出している。

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 この作品の脚本を担当しているのは芸人のバカリズム。これまでにも数多くのドラマ・映画の脚本を手がけており、いずれも話題作になっている。2023年に日本テレビで放送された『ブラッシュアップライフ』は特に高い評価を受け、アジア最大級の番組アワードである『ATA2023』で最優秀脚本賞を受賞した。

 脚本家として活躍している芸人はバカリズムだけではない。1月から始まったドラマ『トーキョーカモフラージュアワー』(ABCテレビ・テレビ朝日系)では、ヒコロヒーが初めて連続ドラマの脚本を務めた。また、2021年にAmazonプライム・ビデオで配信開始されたドラマ『No Activity/本日も異状なし』では、シソンヌのじろうが脚本を担当していた。これら以外にも芸人が脚本家を務めるケースは年々増えてきている。

 なぜ今、脚本家芸人が注目されているのか。根本的な理由の1つは、そもそも現代の芸人がネタ作りを自分自身で行っているからだ。一昔前の演芸界では「漫才作家」という職業があり、芸人が演じるネタを本人たち以外の作家が担当するということがあった。芸人はあくまでも演じる側のプロであり、ネタを作るプロである必要はなかったのだ。

出演から演出まで自分でが当たり前の時代

 だが、今はそういう時代ではなく、ほとんどの芸人が自分でネタを作っていて、出演・演出・脚本をすべて自分たちで行うのが当たり前になっている。そのため、台本を書くという作業自体に慣れている人が多く、脚本家という仕事との親和性はもともと高い。

 もちろん、笑わせることが目的であるコントと、それ以外の要素も含まれるドラマや映画や演劇には違いもある。だが、どんな脚本家も口を揃えて「笑わせることが一番難しい」と言う。笑わせることを専門にしている芸人は、最も難しいことに日頃から取り組んでいるため、脚本家としての感覚が鍛えられているのだ。

 いまや脚本家としてトップクラスの人気と実績を誇る三谷幸喜や宮藤官九郎も、コメディ要素の強い演劇の脚本・演出からキャリアをスタートさせている。また、Netflixの大ヒットドラマ『サンクチュアリ -聖域-』の脚本を担当した金沢知樹ら、もともと芸人だった人が脚本家に転身しているケースも多い。自分の作った物語で人を笑わせる力があれば、脚本家としての基本的な素養はあると考えて間違いない。

芸人には2つのタイプが

 芸人には作家タイプと演者タイプがいる。たとえば、コンビの場合、どちらか一方がネタ作りを担当していることもある。この場合には、ネタを作っている方が作家タイプで、作っていない方が演者タイプである。

 作家タイプの芸人は自分でもネタを演じるので、演者の要素も持っているのだが、作家としての能力が高い場合には、それを世の中に求められて脚本家として才能が開花することもある。

 また、芸人は普段から脚本家であると同時に演じ手でもあるので、演技をする側の気持ちもよくわかっている。だからこそ、独りよがりの脚本になることがなく、クオリティの高いものを作ることができるのだろう。バカリズムの脚本も、何気ない自然な日常会話パートの面白さに定評がある。

 新しくて面白いものを求める人がいる限り、脚本家芸人の需要が衰えることはない。バカリズムという華々しい成功例が出てきた以上、今後も脚本家として活躍する芸人はどんどん増えていく一方だろう。俳優として活動する芸人はいまや珍しいものではなくなっているが、脚本家という職業がそのようになるのも時間の問題だろう。(お笑い評論家・ラリー遠田)

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