新海誠『小説 君の名は。』。往年のラジオドラマではありません。大ヒット中のアニメーション映画を、監督自らが小説化したノベライゼーション。内容はまったくのオリジナルである。
 立花瀧(男子)は都心で暮らす高校2年生。イタリアンレストランでバイトをし、バイト先の先輩にひそかに思いを寄せている。
 宮水三葉(女子)は山深い田舎町に住む高校2年生。父は町長だが家を出ており、祖母と妹と3人暮らし。東京に憧れている。
 ある日、ふたりは夢を見た。瀧は田舎の女子高校生になる夢を、三葉は東京の男子高校生になる夢を。鏡に映った自分の顔に仰天し、見知らぬ友人たちに戸惑い、周囲の環境に目を見張り……。
〈それにしても、我ながらホントに良く出来た夢やなー……〉
 が、同じ夢が何度も続いた後、やっとふたりは気がついた。
 もしかして「俺/私」は夢の中で〈入れ替わってる!?〉。
 男女の心と身体が入れ替わるところは、何度も映画化、ドラマ化された山中恒の児童文学『おれがあいつであいつがおれで』風。ふたりがなかなか出会えないところは、映画もヒットしたくだんのラジオドラマ「君の名は」風。
〈入れ替わりは不定期で、週に二、三度、ふいに訪れる。トリガーは眠ること、原因は不明。/入れ替わっていた時の記憶は、目覚めるとすぐに不鮮明になってしまう〉
 スマホに残した日記でふたりは情報交換をはじめるが……。
 とはいえ、そこは現代のアニメである。入れ替わりがあっても日常性に密着していた物語は途中から「ディープ・インパクト」みたいなSFに接続されるのだ。〈千二百年周期で太陽を公転するティアマト彗星〉が砕けた隕石が〈破壊的なスピードで地表に落下した。落下地点は日本〉って!
 いやー驚きました。純粋な小説だとさすがにここまで荒唐無稽にはしないよな(いや、するか)。タイムスリップまでからんじゃうんだから、もう。ちなみに私、映画は見てません。瀧と三葉がどうなるか。続きは映画館でどうぞ。

週刊朝日 2016年9月23日号