東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 トランプ米新大統領がグリーンランドの獲得に意欲を示している。それなりに現実味のある話のようだ。

 グリーンランド買収の試みは19世紀にまで遡る。第2次大戦後も宗主国のデンマークに対して購入を提案したことがあった。冷戦下でNATOの最前線になり、いまも米軍基地が置かれる。最近は気候変動で海氷が溶け、地政学的な価値がますます上がっている。レアアースなど豊富な地下資源も抱えている。

 他方でグリーンランド側にも独立の動きがある。住民はわずか5万人強だが、独自の言語と伝統をもつ。長い植民地統治への不満は強く、2009年には広範な自治権を獲得した。現自治政府首相は独立支持派で、近く選挙もある。かりに独立するのであれば、経済支援は欠かせない。トランプ氏の提案が魅力的に映る可能性がある。

 米国とデンマークは同盟国であり軍事力の行使は考えられない。とはいえ、今後グリーンランドが住民投票で平和裡に独立し、米国と合併するシナリオは考えられないわけではない。それが民意だと言われれば批判も難しい。

 しかし不穏な予感もする。米国のグリーンランド併合は大きな国境変更を意味する。他国領土の一部を独立させ民意を口実に併合するというのは、まさにロシアがウクライナで行っていることでもある。米国が同じ論法で領土を拡大すれば、中国の台湾政策にも影響するはずだ。大丈夫だろうか。

 ウクライナ戦争が始まってそろそろ3年。国際政治は民主主義と権威主義の対決という構図で語られてきた。

 けれどもその構図が怪しくなり始めている。新たな米国は、権力と資本家が結びついた露骨な自国優先主義の保守国家に変わりつつある。トランプ氏はパナマ運河の再所有も示唆した。中国発の動画投稿アプリTikTokは、新政権に入るイーロン・マスク氏への売却に追い込まれている。そのマスク氏は欧州政治への介入的発言を繰り返している。

 世界のルールが根本から変わりつつある。トランプ政権の4年で大きな破局が来ないことを祈りたい。

AERA 2025年1月27日号

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