仕事休んでインフルエンザウイルスと金沢あたりに3泊4日の小旅行してきたような、その照れ臭そうな顔はなんなんだ?

 このようにインフルエンザといい関係を築いている人がたまにいる。

 私が以前インフルエンザに罹ったときは長野オリンピックの真っ最中だった。布団の中でガタガタ震えながら、テレビの中でスキージャンプの原田選手が「ふなきー、ふなきー、ふなきー」と泣いているのを見つめていた。高熱と身体の痛みにうなされている私。自分の失敗ジャンプの後に、後輩のジャンプを見つめる原田。船木のジャンプが成功し嬉し涙でぐちゃぐちゃになっている原田。それを布団の中からジーッと見つめる私。

正直、つまらない記憶だ

 テレビを消して、頭痛に耐えきれずよろよろと歩いて病院へ行った。まだタミフルなんてなかった。頓服をもらい「様子を見ましょう」なんて言われ、コンビニでおでんを買ってうちに帰ってまた布団に入る。テレビをつけようかつけまいか迷っているうちに寝てしまい、翌日冷たくなったおでんを吐きそうになりながら無理して食べてまた寝た。そのうち寝て起きてを繰り返していたら治ってしまったようだ。

 それ以来、インフルエンザには罹っていない。

 毎年のように罹るとその罹患した数日間の記憶が更新されていくのだろうが、私のインフルエンザの記憶は長野オリンピックの原田の涙と冷めた不味いおでんのまま。正直、つまらない記憶だ。

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原田とおでんに助けられた