「HONKOWA-ほんとにあった怖い話-」「Nemuki+」は朝日新聞出版で長年愛され続けている漫画誌だ。

 どちらもホラー、心霊、スピリチュアル、ファンタジーといったジャンルで数々の名作、人気作家を輩出してきたが、新たな才能を発掘するべく、2021年から毎年、【朝日ホラーコミック大賞】を開催してきた。

 その賞が、このたび大人のタブー恋愛をテーマとする新レーベルの立ち上げに伴い、【朝日コミック大賞】としてリニューアル。その選考会が開催された。

*  *  *

の3部門。また、それぞれのジャンルで小説形式の原作大賞も用意された。今回はその中からホラー・サスペンス部門(コミック)の選考の様子をお届けしよう。

朝日コミック大賞の選考委員長の伊藤潤二さんの選評に、皆、納得する(写真すべて:東川哲也/朝日新聞出版写真映像部)
この記事の写真をすべて見る

 前回に引き続き選考にあたったのは、漫画家の伊藤潤二さん(選考委員長)、漫画家の波津彬子さん(選考委員)、「ほんとにあった怖い話」シリーズ(フジテレビ)監修の後藤博幸さん(選考委員)、東宝株式会社映像本部 開発チームリーダーの馮年さん(選考委員)

以上4名に加え、朝日新聞出版コミック編集部の畑中雄介編集長が選考委員として加わった。

 今回、ホラー・サスペンス部門のコミックには71作品の応募があった。応募作はすべて、事前にコミック編集部員が「〇、×、△」の評価で一次選考をし、絞り込まれた数作を対象に選考委員が選考会に臨んだ。選考会はコミック編集部員が司会を務めながら進んでいった。結果、決まった受賞作品は次の通りだ。

ベテランでも苦悩する”結末の難しさ”

伊藤:大賞の『肌の折り目』はSFっぽいアイデアで、無限の宇宙に対してものすごく狭小な、スーツケース大の小宇宙という、ふたつの対比が面白い作品だと思って推しました。絵の感じも好きですし。

司会:無機質な感じの絵柄が、かえって恐ろしさ、不気味さを増していた気がしますね。

伊藤:ただ、ラストはよくわからなかったんですけどね。とにかく恐ろしい、ということだけはよくわかった(笑)

畑中:地球外からの、宇宙の力が働いているらしいことはわかる。え?そんなの逃れようも抗いようもないじゃん、っていう絶望感はありますね。そこで「どうしてこうなったのか」がわからないままに進んでしまう。そんなところもSF的でした。

波津:ああいうラストって、難しくないですか? 伊藤先生もきっと、いつもどう結末をつけるか困ってらっしゃるんじゃないかと思いますけど。

伊藤:ええ。まったくもって(笑)。人のことは言えません。

司会:わけのわからなさを「不気味さ」に持っていけたということでしょうか。

意外性を狙うのはいいけれど……

司会:優秀賞の『不浄建物清掃員林小林』はどうでしょう?

波津:一番ホッとする絵柄でしたね。そのまま雑誌に載っていてもおかしくないクオリティだったように思います。ただ、なんというか、シリーズものの1話目、みたいな感じなんですよ。ホラー漫画として賞に挑戦するなら、先に宿題を残すような作りじゃなくて、読み切り作品としてもっとブラッシュアップしてほしかったかな。

馮年:僕はこの作品、設定が非常に面白いと思いました。事故死や孤独死、他殺の現場になった建物を祓い清める仕事。単に職業であるだけでなくて、組織的で多国籍企業だったり、研修などがしっかりしていたり。独特の道具を使うとかね。

 今後もすごく世界観が広がっていきそうな、アイテムや設定がちりばめられている。だからシリーズ化しそうな印象を与えるんだと思うんです。ただ、惜しむらくは、その1話目に”セクシーランジェリーによる事故死”を持ってくるセンスはあまりよくないなと。せっかく設定は面白いのに、読む人によっては拒絶反応を示すかもしれない。

次のページ
設定とリンクするような事件がほしい