Newton編集部長:板倉 龍さん(いたくら・りゅう)/1973年生まれ。2002年ニュートンプレスに入社。21年から、編集部長として科学雑誌Newtonの編集人(編集責任者)を担う(写真:本人提供)
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 人々の生活を豊かにしてきた科学。2025年、各分野で注目の研究や技術は何か。Newton編集部長の板倉龍さんに聞いた。AERA 2024年12月30日-2025年1月6日合併号より。

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 2025年は科学にとって、新たな時代の幕開けとなる年になると思います。

 まず注目しているのが、AI(人工知能)です。今や科学の進展にAIは不可欠な存在となっています。これまでも新たに生まれたテクノロジーが、科学の進歩に重要な働きをしてきました。最初は20世紀半ばに登場したコンピューターで、次が1990年代に普及したインターネットです。この二つが科学に与えたインパクトは大きく、これらを基盤に科学は発展しました。それと同じくらい、いま大きなインパクトをもたらしているのがAIです。AIの歴史は50年代にまで遡りますが、特にここ10年の進展は凄まじく、創薬や医療などの分野でも欠かせない存在となっています。

 デミス・ハサビスさんはそのAIの分野で注目している一人です。英グーグル・ディープマインドCEOで、2024年のノーベル化学賞を受賞しました。

 私たちの体の筋肉や臓器など、重要な構成成分はタンパク質でできています。しかし構造は複雑で、形を正確に知ることは創薬や医療の分野では夢でした。それが、ハサビスさんが率いるチームが開発した「アルファフォールド(AF)」と呼ばれるAIを活用すれば、数年かかっていたタンパク質の立体構造が数分でわかります。25年はAFを活用することで、薬の臨床試験が始まると期待しています。そして将来、がんや認知症に効く薬がつくられるかもしれません。

 宇宙科学の分野では、注目したい人が2人います。

一人は月探査計画「HAKUTO-R」を進める宇宙ベンチャーispace(アイスペース)CEOの袴田武史さんです。

いま世界中で宇宙開発競争が進み、民間企業の存在が重要さを増しています。そんな中、日本でトップを走る企業の一つがispaceです。23年4月に、無人機での月面軟着陸に挑戦しましたが、あと一歩で及びませんでした。そこで25年1月以降に再挑戦します。成功すれば、日本民間勢初の月面着陸となります。人類はいずれ月に住む時代が来ると考えられていて、その新大陸への先発隊として向かうことに大きな期待があります。

ノーベル化学賞を受賞したデミス・ハサビス=2024年12月10日、スウェーデン・ストックホルム(写真:ロイター/アフロ)
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