小野寺氏がデモンストレーションした、頚椎への危険な手技の例(「頚椎への危険な手技と解説」から抜粋 ※画像の一部を加工しています)

関節が鳴る“ボキッ”の正体は…

 有志のカイロプラクターが結成する業界団体「カイロプラクティック制度化推進会議」は、この現状を問題視し、今年6月に「頚椎への危険な手技と解説」という啓発資料を公開した。

 資料作成に携わった同会議代表委員の小野寺靖氏は、「スラスト法はF1マシンのようなもの。正しく使えば強力なパフォーマンスを出せるが、少しでも操作を間違えると大事故になる」と話す。

 小野寺氏によると、スラスト法の安全性について考える上での大前提は、「関節がボキッと鳴ることと、本来の動きを取り戻すことに因果関係はない」ということだ。

 関節が鳴る音は「クラッキング」と呼ばれる。その正体は、関節に大きな負荷が加わって内圧が変わることで、内部を満たす滑液に気泡が生じて弾ける音だとされている。炭酸飲料のペットボトルを開けたときのプシュッという音をイメージすると分かりやすいだろう。

 つまり、クラッキングは関節が勢いよく動いた結果生じるものにすぎず、正常な位置に動いたかどうかは別問題ということだ。音を鳴らすことを目的に無理な力を加えれば、関節周辺のじん帯や筋肉を破壊しかねない。

 特に首への施術は、細心の注意が必要だ。頚椎周辺には脊髄や頸(けい)動脈など重要な神経や血管が数多く通っており、損傷すれば手足のしびれや、だるさや頭痛といった不定愁訴を引き起こす可能性がある。小野寺氏によると、「数年後に症状が出るケースもあり、被害の実態を把握するのは難しい」というから、たちが悪い。

次のページ
骨が欠ければ命を落とすことも