究極の海外展開は、地産地消、トランスナショナル経営モデルであり、この典型例がBBC Worldwideであろう。もちろん当初の意図はBBC番組の海外展開にあたり、ケーブル・衛星用の番組ネットワークとして、子会社/現地法人などを設置し、在外英国人向けサービスであったかもしれない。言語・文化を共有するとはいえ、それがBBC Americaのように現地での取材・番組制作も積極的に行われ、約7687万世帯契約(2016年1月。ウェザー、CNN、フード、ディスカバリーなど、最上位クラスで1億世帯弱の契約)くらいの浸透度になると、まさしく地産地消である。
●ネット配信
映画や音楽の世界では米国資本メジャーが強い競争力を持ち、グローバル市場、世界各国で圧倒的シェアを持つ構造がある。各国の国内資本は、自国では強くても、外国ではインディ同様の存在になってしまうが、グローバル・プレイヤーは多くの国で国内資本と十分な競争力を有している(表2)。
同様の産業組織が、ネット配信事業においても徐々に形成されつつあるのではないかという感触をいだく。放送は規制によって参入障壁が築かれてきたが、映画も音楽もネット配信も自由市場なのである。放送は今、通信融合の過程のなかで、そういったところに事業領域拡大の検討を求められている。
アマゾン・プライム、ネットフリックスといったグローバル・プレイヤーのコンテンツ・ラインナップは、伝統的コンテンツ・ホルダーのコンテンツの再配信を誘いつつ、併行してオリジナル・コンテンツの開発を進めるというのが、基本的な方向性としてある。
現時点では、必ずしも全てのプレイヤーにおいて、メジャー・コンテンツ・ホルダーのコンテンツは網羅的にラインナップされておらず、多少、差別化の属性として残っている。わが国同様、欧州においても伝統的ホルダー側が供給に慎重に構えている様子も窺える。しかし超長期的視点で考えれば、外部コンテンツの品揃えはレンタル・ビデオ事業者の品揃えやケーブル事業者のチャンネル・ラインナップと同様とみなすことができ、やがて有意な差別化の源泉となりにくくなることは、それらの歴史からみても予想される。そうすると、既存プレイヤーには再送信/番組販売のウインドウとしてのネット配信の価値が高まることとなる。むしろオリジナルの品揃えでの差別化戦略のほうが、2025年に向けて激しい競争になると考えられる。ネット事業者のオリジナル・コンテンツは、当初はシンジケーション的に外部から供給されるものを排他的に獲得することから始まっている。以後、Amazon studioが実施しているように、あたかもハリウッド・メジャー・スタジオのビジネス・モデルのごとく、企画持ち込み/コンペでの優秀な企画にリソースを投下する形へ進化した。さらに監督やスーパースターといったクリエイティブ・タレントをめぐる放送・映画・ネット間の争奪戦も見られるようになってきた。70年代にケーブルテレビ普及の一翼を担ったとされるHBOを比較基準にとれば、アマゾン・プライム、ネットフリックスの現在のコンテンツ投資は、なんらHBOと遜色のないものである(図3)。
●結語
2014年末くらいから、わが国の海外番販において、アニメを中心としたネット配信バブルが発生しているといわれる。新しいメディアの普及により、番組を大量供給できる供給者が重宝されるのは上述のとおりであり、わが国のアニメにとっては80年代欧州放送民営化時と同じ現象でもある。そのときに子どもであった世代は大人になり、ジャパン・エキスポ(パリ)のような国際交流としても商業的にもわが国にとってありがたい存在となって今に現れている。喫緊は商業的成果を生み出すことの政府要求が強いが、文化的財である放送番組には、長いスパンでの正の外部性を有していることも忘れてはならない。