縁もゆかりもなかった保育士資格を取る。63歳からの手習いに挑んだ事件記者は短期大学の授業や試験で自らの記者経験を生かし、着々とゴールを引き寄せる。元朝日新聞記者・緒方健二氏の著書「事件記者 保育士になる」(CCCメディアハウス)から一部抜粋してその奮闘を紹介する。
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前期と後期の授業が終わるたび、試験があります。「可」以上の評価を得て合格しないと単位が取れません。つまり保育士資格と幼稚園教諭免許の取得が夢と消えます。
試験については授業の最終回に教員が説明します。その内容には濃淡があります。出題範囲を細かく説明なさる方がいれば、大雑把に示すにとどめる方がいる。
問題は後者です。「これまでの授業で配った資料ぜえええんぶが出題範囲です」とおっしゃる強者もいらっしゃる。
しばしお待ちを。
試験前の尋問
資料はすべて保管していますが、重ねると厚さは8センチを優に超えますぞ。解読不能のものも含まれます。先生ご自身も把握されてはおられますまい。教員は当方らの生殺与奪の権を握っておられる。それを楽しもうとな さるかのごとき振る舞い、わからぬではありません。当方が教員ならそうしかねません。
いえ、それでは困るのです。
大部資料との格闘なら新聞記者時代に経験しました。いささか腕に覚えがありまする。集めた登記簿謄本や有価証券報告書などの束を一枚一枚丹念に読み込み、犯罪の糸口を探る作業に没頭しました。まだ老眼が進んでいない時分ながらたいそう苦しみました。
試験まであと数日、ほかの科目もたくさん控えております。分厚い配布資料をめくり直す暇がありません。しからば情理を尽くして出題者から聞き出す以外にありません。
配布資料の束をかたわらに置き、授業のすべてを記した「講義録」ノートを頼りに質問します。講義録には教員の似顔絵も描いてあります。
「☆試験に出る」、「必ず出す」と赤ペンで書いてある箇所を中心に攻めます。