当初は泡沫候補といわれながら、米大統領選の共和党候補に指名されたドナルド・J・トランプ。『THE TRUMP』の副題は「傷ついたアメリカ、最強の切り札」。大統領選に打って出た彼の政策を語った本である。断片的に入ってくる情報から、どんなトンデモ人物かと思いきや、主張の内容は意外と(?)まとも。
〈私は移民を愛している〉が、〈私が許せないのは不法移民という存在だ〉と彼はいう。〈不法移民に対して我々が払っている犠牲は莫大なものだ〉〈まずやらなければならないのは、南の国境の守りを固めることだ〉〈一番効果的な方法は壁を建設することだ〉。が、メディアは伝えた。〈「トランプ、“移民はすべて犯罪者でメキシカンはすべて強姦者”と発言」〉
〈外交政策についての私の姿勢は、まず強力な基盤を作ることだ〉と彼はいう。〈他を圧倒する強力な軍隊を持つことだ。強い経済を利用して、友好的な国には見返りを、そうでない国には罰を与える〉〈我々は平和を買い、国家の安全保障を強化できるのだ〉
〈米国は再び勝利しなければならない〉というビジョンの下に繰り出される政策は、先週取り上げた『バーニー・サンダース自伝』とは逆向きだが、ビジネスで大成功した人の言だけに、〈私の仕事のやり方はこうだ。その仕事に必要な最高の人材を見つけ、彼らを雇い、事に当たらせる〉とか〈私はどうやって交渉をまとめればよいか知っている〉とかいわれると説得力大。マッチョな米国民には賛同する人も多そうである。
〈雇用を創出して経済を立て直すことに関して、私は「理論」を語らない唯一の専門家だ〉と豪語。〈私はどうやって仕事を創ればよいか知っている。今までのキャリアで、私は何万という雇用を生み出してきた〉とかね。
 気になる対日関係は〈我々はドイツも日本も韓国も守っている。どれも強く富裕な国々だ。ここでも我々はタダ働きだ〉。なるほど米国の保守派にはこう見えるんだ。つい洗脳されそうになるだけに、言説の危なさが実感できる。

週刊朝日 2016年8月12日号