AERA 2024年12月16日号より
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 年収の壁をめぐる問題が国会で焦点化しているが、そもそも日本人の「手取り」はなぜ増えないのか。生活防衛の対応策や処方箋は「待ったなし」だ。AERA 2024年12月16日号より。

【表を見る】「年収700万円の手取りが22年間で51万円も減少!」はこちら

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「昇進しても手取りが増えない」「インフレになっても手取りが増えない」

 こんな悲鳴のような声が巷にあふれている。先の衆院選では「手取りを増やす」と訴えた国民民主党が躍進した。春闘やボーナスの時期に「歴史的な賃上げ」と報じられても実感が湧かず、格差の拡大を実感するばかり、という人も少なくないだろう。

 日本人の「手取り」はどう推移してきたのか。

 ファイナンシャルプランナーの深田晶恵さんの試算によると、年収700万円の会社員(専業主婦の妻と15歳以下の子ども2人と想定)の場合、2002年の手取り収入は587万円だったのに対し、24年は536万円。この22年間で51万円減少している。

 手取りは増えるどころか、1割近くも減っていたのだ。要因は社会保険料の値上げや、所得税・住民税の配偶者特別控除の一部廃止、子どもの扶養控除の縮小・廃止などが挙げられるという。

実質賃金は目減り

 そもそも日本全体の平均年収はバブル経済がはじけた1990年代以降、デフレのため四半世紀にわたって停滞してきた。この数年は円安などに伴うインフレを機にベースアップによって労働者が実際に受け取る「名目賃金」が増えても、物価上昇分を差し引いた「実質賃金」は目減りしているのが実情だ。

 厚生労働省が11月に発表した9月分の毎月勤労統計調査(速報)によると、働き手1人あたりの実質賃金は前年同月より0.1%減り、2カ月連続でマイナス。5月まで過去最長の26カ月連続マイナスだった実質賃金は、ボーナスによる押し上げ効果で6、7月はプラスに転じたが、その後は2カ月連続のマイナスだ。電気・ガス料金の補助金が復活して消費者物価の伸びを抑制してもなお、賃金の上昇が追いついていない。

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「手取りの減少」は年金を受給する高齢世代にも及ぶ