バットが「魔法の杖」のよう
大リーグ専門のメディアMLB.comによると、01年に大リーグデビューし、MVPを獲得したイチローは異色の選手だったという。
「表彰されたほかの選手はみな、筋肉隆々のホームランを連発する強打者だったからです」(MLB.com)
観客は、小柄で細身のイチローがまるで「魔法の杖」(同)のようにバットを操り、どんな球でもヒットにしてしまう技術の高さに驚いた。試合中継のアナウンサーに「スターウォーズのレーザービームのようだ」と、描写された送球の鋭さにも観客はしびれた。
現在、イチロー人気はどれほどのものなのか。
「野球ファンなら誰でも、バットを渡してイチローのバッティング構えとスイングをまねするように頼めば、それ以上の指示は必要ないでしょう」(同)
バットを掲げて袖を上げるあのポーズは米国のファンの脳裏に焼き付いているのだ。
イチローがいなかったら
以前、記者は『菊とバット』『イチロー革命』などを執筆した作家ロバート・ホワイティングさんにインタビューした。ホワイティングさんはこう語っていた。
「かつて米国では、日本人は家電製品や自動車などの輸出に執着する『顔がない人々』と見られてきた。ところが、日本人選手のすばらしい活躍で米国人の日本人に対するイメージが大きく変わった」
そのパイオニアとなったのが1995年に渡米した野茂英雄選手だ。その後、イチローの活躍は米国民に大きな影響を与えたという。
「大谷もすばらしい選手ですが、日本人選手に対する評判や親しみやすさはイチローがいなかったら、実現しなかったでしょう」(ホワイティングさん)
現在、イチローはシアトル・マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターを務めるとともに、全国各地の高校を訪れ、野球を指導している。
来年7月、イチローがどんなスピーチをするのか、今から楽しみだ。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)