(岩永)東証は2023年3月、上場企業に「資本コストや株価を意識した経営」のお願いをしました。「あのタイミングで東証が働きかけたことで市場が変わりましたね」「救世主が」などと(報道で)褒めていただくと、くすぐったい感じがしてですね(笑)。
(水嶋)なぜ、くすぐったいんですか? 胸を張ってよさそうな。
(岩永)いやいや、2015年に企業統治の指針として公表した「コーポレートガバナンス・コード」に、2023年の「お願い」と同じ趣旨のことが書いてあるんですよ。
ところが2015年の時点では大半の上場企業が「自分の会社は資本コストを考え、株価を意識して合理的に経営している」と自己評価しているケースが多く。
(水嶋)我々投資家サイドに言わせれば「いやいや全然、効率的に資本を回していない企業のほうが多い」という感じで。
(岩永)そうです、企業の自己評価と投資家からの評価に違いが……。
経過措置の不評を受け
(水嶋)風向きが少し変わりはじめたのは、2022年4月の市場区分見直しからですね。
(岩永)はい。1部、2部、マザーズ、ジャスダックの4市場をプライム、スタンダード、グロースの3つに再編しました。その際、上場基準を満たさなくても、1部上場企業はプライム市場に移れる経過措置も設けました。
(編集部)その経過措置は不評でしたね。「名前をプライムに変えただけ」「基準を下回る企業まで一時的でもプライム銘柄にするなら、何のための基準かわからない」と。
(岩永)私たちも真摯(しんし)に受け止め、新市場開始の3カ月後に有識者委員会を立ち上げ、基準に達していない企業への猶予期間をどう定めるか、議論することに。
(水嶋)我々もその様子を注視していました。
(岩永)初回会合で、ある方が「PBR(株価純資産倍率)1倍割れの企業」を問題視しました。PBRは株価が1株当たり純資産の何倍かを示す指標です。当時のプライム企業の約5割がPBR1倍を割っているのはいかがなものかと。