新聞で「新NISA人気、円売り拍車」などの見出しをよく見かけた。新NISAが輸入品の価格を高騰させて国民を苦しめる「円安の犯人」であるかのような論調もあった。その真偽を検証する。【本記事はアエラ増刊「AERA Money 2024秋冬号」から抜粋しています】
【図3点】新NISA9.6兆円に対し為替の取引量はいくらか分かる図はこちら!
新NISAの定番となったのが、全世界株式やS&P500に連動した外貨建てインデックス型投資信託(以下、投信)へのつみたて投資。新NISA投資家が入金した「巨額の」日本円が、毎月せっせと米ドルに両替され、海外の株式が買われている––––。そんな雰囲気の報道が何度かあった。
2024年1〜8月の外貨建て投信への純流入額(買われた金額)の合計は新NISA経由も含め、推定約9兆6000億円(本誌取材による数字)。確かに「巨額」に見える。
為替1日で52兆円
では、そもそも為替市場全体で米ドル/円の取引高はどれぐらいあるのだろうか。この質問にざっくりとでも答えられる専門家を探すのに苦労したが、ようやく見つかった。国際通貨研究所経済調査部上席研究員の橋本将司さんだ。
橋本さんによると、2022年のBIS(国際決済銀行)調査で取引通貨ペアごとの取引額が集計されているとのこと。その集計によると2022年4月の1日当たりの米ドル/円の取引額は1兆140億ドル(約147兆円。1ドル=145円換算/以下同)に上る。
通貨ごとの取引形態の集計で、新NISA経由の外貨建て投資についてはスポット取引を見て推計するのが一つの考え方だ。スポット取引のシェアは日本円全体の取引高の約35%を占めている。
この35%が米ドル/円でも同じ割合と仮定して計算すると、2022年4月の1日当たりの米ドル/円のスポット取引額は「1兆140億ドル×35%」で3549億ドル(約52兆円)と推計される。
「これは1日当たりの金額で、スポット取引だけを見ても膨大であることがわかります。米ドル/円の為替レートは海外投資家も含めた巨大な国際金融市場の取引で決まっていきます。
日本という一つの国の、新NISAによる外貨建て投資は円安材料に『一切ならない』とはもちろん言えませんが、新NISAが大きな影響力を及ぼしている(円安に押し上げている)とは考えがたいです」(橋本さん)