注目される「リファラル採用」が早くも悪用され始めている…。写真はイメージ(PIXTA)
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 リファラル採用という言葉を聞いたことがあるだろうか? 近年、人手不足にあえぐ企業が採用コストの削減と人材の定着化を目的として、自社の従業員が信頼できる友人や知人を自分の会社に紹介するという採用手法だ。自社の従業員からの推薦であれば信頼性も高く、企業風土にもマッチしやすい人材が獲得できるとして、紹介者には報酬が支払われることが多い。だが、実はこのリファラル採用が「悪用」されるケースが出始めているというのだ。元大手人材紹介会社教育研修部長で、長年にわたり講演や執筆活動を通じて、転職先での活躍支援に携わっている川野智己氏が、実際にあった中途採用の事例を紹介する。

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 山花美和(39、仮名)は、東京・多摩地区の公営住宅で2人の男の子を育てる専業主婦だったが、下の子の子育てが一段落したこともあり、パート先を探し始めていた。パートを探すにあたっては、「安心して働ける信頼できる職場」という環境を最優先した。なぜなら、彼女は新卒で地元のエステサロンに就職したものの、わずか3年で退職した苦い思い出があったからだ。そのサロンは客に対して「全国の医師が勧めている」「学会で科学的効果が証明された」などと虚偽の広告で勧誘し、かつ、従業員に過酷な労働を強いる“ブラック職場”だった。美和はそのことを気に病み、「信頼できない職場では働けない」と退職をした過去があった。

 そんな美和が「どこか良いパート先ないかな?」と相談したところ、真っ先に「あるわよ」と反応したのが知人の小田恵(32、仮名)だった。

「町内の病院の清掃、洗濯の仕事なんだけど、私もそこで働いているの。良い職場だと保証するわ」

 こう語る恵とは次男の学校でPTA役員としても一緒に活動したことがあった。次男は一時期学校でいじめにあっていたことがあり、美和は自らPTA役員に立候補したのだ。恵とはそこまで親しい仲では無かったものの、

「怪しいネット求人に応募するよりも、信頼できる勤務先ならありがたい。地域密着の病院ならさすがに変なことはしないだろうし、何よりも小田さんの推薦もある。知り合いがいるなら入社後も心細くないはず」

 と考え、その提案を受けてみることにした。

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「ママ友の間で悪い評判が立つことになるわよ」