出勤初日に「全然、話が違う」
美和は条件面でいくつか希望があり、それを正直に恵に伝えた。
「住宅ローンが厳しくて、時給は1200円は欲しい。それに、次男がいじめの後遺症で不登校気味なので、有給休暇を使って突発的にでも休めるところが希望なの」
すると恵は、こう言って美和を安心させた。
「大丈夫よ。私も時給1200円もらっているし、気ままに『今日、都合により休みま~す』って突然休んでるわ。有給休暇の行使は労働者の当然の権利よ。最初の月から使いなよ。遠慮することないよ」
美和は恵に感謝するとともに、安心できる会社で職が見つかってよかったと胸をなでおろした。
だが……。
「全然、話が違う」
美和がそう感じたのは、初出勤の日の朝であった。
初めて会った病院の事務長は、雇用契約書を持参し、美和にこうくぎを刺してきた。
「小田さんがどう説明したか知らないが、条件はこの雇用契約書に書いてある通りです。最初の半年間は“お試し雇用”として時給は1050円。突発的な休みがほしいって言うけど、あなたは、仲間に迷惑をかけても良いんですか? 有給休暇も最初の半年間は従業員に付与する義務はありませんよ。文句ばかり言うから、てっきり労働法に詳しいのかと思ったが、そうでもないみたいだね」
さらに、制服である作業着は自腹で買わされ、シーツなどの洗濯物はかなりの重量で力仕事だった。かつ、空調も窓もない地下での作業を強いられる環境であることもわかった。
美和は早速、恵を問いただした。すると、
「そんなこと言ってないじゃない。仮に言ったとしても、私だって人事のプロじゃないのよ。いずれにしても、最終的には納得してあなたがここに来たんじゃないの。いい大人なんだから、もっと自立してよ。いいがかりをつけるなら、ママ友の間で悪い評判が立つことになるわよ。言いたくないけど」
と、逆切れする始末であった。
さらに入社後に分かったのは、社内にはパート同士の対立があり、“今度の新人さんは小田の息のかかった人間”とのレッテルを貼られ、派閥の争い巻き込まれていたことだった。