個性が光るが作品全体の空気感は壊さず、むしろなじんでいる……そんな存在感を放つ俳優の長井短(ながいみじか)さん。12月には草彅剛さんが主役・シャイロックを務める舞台「ヴェニスの商人」に出演し、シャイクスピアに初挑戦する。俳優としてだけでなく、作家としての顔を持ち、演者としても書き手としても注目を集める売れっ子に、俳優と作家、それぞれに掛ける思いを聞いた。
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草彅さんを「知らない」スタンスで
――「ヴェニスの商人」で、シェイクスピアに初挑戦しますね。意気込みを聞かせて下さい。
シェイクスピアは俳優として、ずっとやりたいと思っていたのですごく嬉しいです。「演劇をやっているからには一度はやっとかないと」という気持ちです。
――「ヴェニスの商人」といえば、最強の悪役・シャイロックが有名です。シャイロックを演じる草彅剛さんの印象は。
子どもの頃から見てきた方なので、お会いしたことないのに「こういう方かな?」ってイメージしそうになるんですが……でもやっぱり会ったことがないので。いい意味で「知らない人」というスタンスで(笑)、稽古に臨もうと思っています。
――「ヴェニスの商人」では、登場人物の中でもアクセントとなる「侍女・ネリッサ役」を演じます。
最初にお話をいただいたときは、率直に「面白そうな役だな」と感じました。ただ稽古前に固めてしまうのはよくないと思うので、最低限の準備はもちろんしますが、キャラクターを固めずに真っ白な状態で、稽古しながらみんなで創り上げていきたいと思っています。
――長井さんの今までの出演作を見ると、ドラマ「ねこ物件」のようにヒロイン(不動産屋の広瀬さん)や主人公のかたわらにいて、独特の存在感を放つ役がとても強く印象に残っています。このネリッサという役もヒロイン・ポーシャ(演者・佐久間由衣さん)の侍女ですので、期待してしまいます。
そう言っていただけると嬉しいですが、演出の森新太郎さんと組むのは今回が初めてなので、どうして自分をキャスティングしてくれたのか、自分のどんな面を求めてくれているのかを感じながら役作りをしていこうと思っています。もちろん台本や共演者を見て「自分には、こういう役割が求められているんだな」と頭で考えることはあります。ただ、やはり相手あっての仕事なので、現場でのやりとりを大事にしたいです。相手の言葉をきちんと聞く、受け止めて返すことはどんな仕事でも大事にしています。
――草彅剛さん、佐久間由衣さんを筆頭に、ベテランや若手の注目株が多数出演されます。
年の近い出演者も多いので、仲の良い座組になればいいなと思っています。というのも、これまでの仕事を通して「ガチガチに緊張するよりも、リラックスしているほうが良いパフォーマンスができるのは当たり前だ」ということが、明確にわかってきたからなんです。ある種、我々演者もスポーツ選手と一緒だと思っているんです。打席に立ったときに「打てるか打てないか」なんですよね。スポーツ選手も自分の好きな音楽を流してテンションを上げたり、リラックスしたりするように、演者もリラックスできる環境にあるほうがいろんなアプローチができるし、周囲にも「これわからないんですが」と素直に聞くこともできる。そのメリットのほうが数倍大きい。もちろん、リラックスするより緊張していたほうが良いパフォーマンスが出せる人もいると思いますが、私はベストパフォーマンスを出すためにはリラックスしたいですし、そのためにも共演者と仲良くなっておくことは大事だと思っています。
――リラックスこそがいい仕事をする秘訣(ひけつ)……確かにどんな仕事にも共通しますね。
特に今は、いろんな現場で年下の人が増えてきました。私より若い人たちが悩んでいるとき、わからないことをわからないと言うことができる、頼っていいんだと思ってもらえる大人でありたいですし、そんな現場が望ましいと思っています。