全国各地のそれぞれの職場にいる、優れた技能やノウハウを持つ人が登場する連載「職場の神様」。様々な分野で活躍する人たちの神業と仕事の極意を紹介する。AERA2024年10月28日号には江北図書館 館長 久保寺容子さんが登場した。
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建物に入ると、まるで時が止まったかのような静けさが漂う。122年続く江北(こほく)図書館。滋賀・木之本町の地域住民によって運営を続ける私設の図書館で、館長を継いで3年になる。10年前に1年働き、そのまま町に留まった。
「この町の本に対する愛情を感じたんです。木之本は北国街道が通る宿場町で、商家の女性はお店を守るのに家を空けられず、図書館があったから本の中で旅ができた、みんなで読書クラブを50年続けたという話をおばあちゃんたちから伺いました。町と図書館が一緒に育ってきたと感じて離れがたくなって。いずれは図書館を守りたいと思い、近所で古書店を開きました」
やがて理事メンバーの世代交代で声がかかり、理事と館長を引き受けた。
「建物の老朽化がひどく、雨漏りしても修理費がない。収入源だった駐車場賃料の大口契約が無くなり、苦しい中の仕切り直しでした。私立なので、公立図書館のように行政からの資金援助は受けられない。その分自由はある」
仲間とともに知恵を出し合い、掃除から始めて場を整え本のまちとして情報発信やイベント開催に打って出た。再生に向けた活発な取り組みで第4回野間出版文化賞特別賞を受賞。続くクラウドファンディングでは支援金を元に建物を緊急修繕し、別館にトイレを設置しカフェを併設した。
「返礼はいらないと現金を握りしめて来てくれた方が多かったです。普段も、ここにあってもらわんと困ると言って寄付金を渡される方もいて、町には共助精神があります」
図書館の建物は元々、農業団体の庁舎として建てられたもので、今年、国の登録有形文化財に登録された。大規模改修を控えるが物価高騰で費用が倍に膨らみ、難局は続く。
「移転する選択肢もありましたが、建物も一緒に守ろうと決断しました。大変な道かもしれないけど、みんな江北図書館とともに生きていこうと。ここにある江戸期の資料や明治〜昭和初期の本など、建物の空気に包まれて一緒に育ってきたし、本棚も創設当初のまま使っています。物が応援してくれているようで心強く、守っていく矜持になる。この図書館は宝箱。もっと生かしていこうと可能性を探り当てている状態です」
あり続けるため、走りながら考える日々だ。(ライター・桝郷春美)
※AERA 2024年10月28日号