二人の間にいったい何が起きたのか、それは二人だけが知ることだろう。結婚の真相もわからない。事実は、男はアニータさんに出会う数年前から横領をしていた。いつから横領が始まったのかは定かではないが、アニータさんに出会う前から少なくとも三〇〇万円以上を性産業などのために横領していたことが裁判で認定されている。
一方アニータさんは、日本に「売春プロモーター」によって連れてこられ、売春を強いられた。売春プロモーターをとんでもなく儲けさせ、「外国人の女」を求める無数の日本人男性たちのセックスの相手をしてきた。アニータさんにとって、男は金であった。生きるための金だった。日本は金だった。自分から奪ったものを取り戻すための金だった。
事件が発覚してから23年後の日本で、なぜ今さら「アニータ」なのか。連載の目的がどこにあるのか、どのように終着していくのかわからないが、正直、どこか重たい気持ちになる。それは、この国の男たちが抱えている「アニータさん」への深く暗い恨みのようなものを、インタビュー記事から感じるからだろうか。女であるというだけで不当に莫大な富を得られる女への憎しみ、軽蔑、怒り。金を返せ、俺たちの金を返せ、という粘着のような静かな怒りを、インタビューから嗅ぎ取ってしまうのは、私だけだろうか。連載の続きを見守りたい。
久しぶりにアニータさんを思い出したこのインタビュー記事を読みながら、どうしても「頂き女子りりちゃん」のことが頭に浮かぶ。先日、出会い系で出会った男性たち数人から1億5千万円を奪った26歳の女性「頂き女子りりちゃん」に二審で懲役8年6カ月、罰金800万円の判決が出た(被告は上告)。
お金の威力で若い女と関係を築きたいとする中年男性たちの欲望の強さがどれほどのものか私はわからないが、若い女性と中年男性の組み合わせの質が、23年前の「アニータさん」の頃とは違うのかもしれない。公金から14億強を横領した男性への懲役15年の求刑が出た2001年。恋愛感情をちらつかせ男の自尊心をくすぐり1億5千万円を引きだした20代の女性に懲役8年6カ月の判決が出る(まだ確定していない)2024年。
中年男性の恋愛感情を利用し、簡単に大金を手に入れようとする若い女に対して、「絶対に許さない」という処罰感情が、もしかしたらこの国は23年前よりも深まっているのではないか。そして深まっているのだとしたら、いったいなぜなのだろう。