上演されたのは、佐賀藩から派遣された佐野常民が、1867(慶応3)年のパリ万博を視察して帰国した後、日本赤十字社を創設するまでの場面。
愛子さまは立ったまま、お芝居を観賞されていた。歴史館からは、愛子さまのために椅子を用意することを伝えたが、宮内庁サイドは「そのままで結構です」という返事だった。
寸劇を披露した場所は和室。気軽に畳に座るわけにもいかない、皇室の方々の苦労の一端がしのばれたが、愛子さまは上演の間、ひとつひとつの場面をうなずきながらご覧になっていたという。
寸劇を披露した後の懇談の時間で、愛子さまは佐野常民を演じた鷹巣将弥さん(29)に、
「佐野常民役の役者の方ですね」
と言葉をかけ、感想をこう伝えた。
「人間を救うのは人間――。このキャッチフレーズをお芝居に取り入れてくださって、ありがとうございます」
佐野常民がパリ万博で赤十字の存在を知り、その感動を「わしは驚いた。あちらでは戦場で傷ついたものを、敵味方なく助ける組織がおったんじゃ」と、同郷の副島種臣に伝えるシーンがある。その場面のなかで、佐野常民が「人間を救うのは人間」という日赤のスローガンを述べたことに、愛子さまがお礼を述べたのだ。
鷹巣さんがそのセリフを大切に口にしたことを伝えると、愛子さまはにっこりとユーモアで返した。
「初代、(日赤)社長として?」
はい、と鷹巣さんも笑顔で応じた。佐野常民という人物についての資料を読み込み、イメージを膨らませながら愛情を込めて演じていると話すと、愛子さまは嬉しそうな表情を見せたという。
鷹巣さんは、愛子さまの印象について、こう語る。
「あとで、『佐野常民さんとお話をしたので、緊張しました』と感想を漏らされたと聞き、とても驚きました。思い返せば、たしかにお声がけの最中に目線が合わない場面もあり、何かしてしまったのかとドキドキしていたのです」
遠い存在だった皇族の方を、すこしだけ身近に感じるエピソードでしたと、鷹巣さんは振り返った。