東大生の就職先といえば、中央官庁や大企業というイメージが強い。だが、終身雇用や年功序列といった日本型雇用が転換を迫られる中、東大生に人気の就職先も様変わりしつつある。東大生はどこへ行くのか。AERA10月15日発売号(10月21日号)で深堀りします。
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この記事の写真をすべて見る典型的なエリートコースに異変
東京大学から霞が関へ。これが典型的なエリートコースだったのは過去のこと。そんな現実が近づきつつある。
人事院によると、2024年度春に実施した、キャリア官僚採用の前提となる国家公務員試験(総合職)の合格者1953人のうち東大出身は189人。12年度に現在の試験制度となって以降、過去最少だった。14年度春の試験に合格した東大出身者438人から10年で半分以下まで落ち込んでいる。東大生はなぜ官僚を目指さなくなったのか。
「学歴よりも社会に出てからの実力が重要だという認識が広がるほど、中央官庁は就職先として選ばれにくくなります」
こう話すのは元労働省(現厚生労働省)キャリアで神戸学院大学教授の中野雅至さん(60)だ。
東大生の官僚離れが顕在化したこの10年。「先行き不透明な時代」と言われ、東大生に限らずコスパやタイパを重視する若い世代が台頭した。彼らが優先するのは「どの組織に属するか」よりも「どういうスキルを得られるか」だ。
「東大を出たという学歴だけで通用するほど甘くない時代だと分かっている東大生は、実力勝負の社会で生き抜くため、より短期間で自分が望むスキルを身に付けられるポジション=就職先を選び取ろうとします」(中野さん)
「ブラック霞が関」から外資コンサルへ
東大を出たのは社会のメインストリームにつながる一つの土台にすぎない。より大事なのは長いキャリア人生で優位に立ち続けられるスキルをいかに効率よく身に付けるか。そう考えると、さまざまな点で効率の悪い中央官庁は敬遠される、というのだ。実際、キャリア官僚は通常2年で異動し、さまざまな部署や地方での勤務経験が必須。こうした組織では短期間で専門的なスキルは身に付きにくい。
この対極にあるのが近年、東大生に人気の外資系コンサルだ。あえてベンチャー企業に就職する東大生も含め、多くは数年の在籍期間中に自分が思い描いた「成果」を獲得し、次のステップに移っていく。中野さんはこのトレンドを、東大生にジョブ型志向が増えていることの表れだと指摘する。
「コンサルやベンチャーに身を置くのは、『経営』のプロになることを念頭に置いたジョブ型志向の典型です。このように自分のキャリアの先を読めるタイプは東大の中で最も優秀な層だと思います」
東大生の官僚離れの要因は他にもある。「ブラック霞が関」と言われる旧態依然とした働き方や人事評価制度も挙げられる。中野さんは言う。
「キャリア官僚を最も多く輩出してきた東大の学生は、官僚の働き方やマインドに関する機微な情報をOBやOGを通じて最も得やすい立ち位置にいます。そんな東大生の官僚離れが顕著なのは必然といえます」
記憶に新しいのは、コロナ禍で浮き彫りになった内閣官房新型コロナウイルス感染症対策推進室(コロナ室)職員の残業問題。緊急事態宣言が出された21年1月のコロナ室の平均の残業時間は「過労死ライン」の月80時間を大幅に超える約122時間。最も長く残業した職員は約378時間だった。