田内学(たうち・まなぶ)/1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など

「税金の負担増が景気を下押しする」という反論もあるが、あまり心配する必要はないだろう。富裕層から集めたお金は消えて無くなるのではなく、再分配によって誰かが受け取ることになる。一般的に、富裕層に比べると、低所得者層の方が消費性向が高い(より高い割合で消費にお金を回す)。銀行口座で眠るお金が消費に回り、むしろ経済を活性化させる効果は期待できるはずだ。

「金融課税の強化は株価に悪影響を与える」という声も気にしなくていいだろう。株価を気にしている時点で、金融資産をたくさん持っている人である。貧困層が増えていることが問題なのだから、我慢してもらわざるを得ない。

 重要なのは、徴収した税金をどこに配り、何に使うかという点だ。単に税金を取るか取らないかという議論ではなく、その使い道についてもっと議論を深める必要がある。たとえば、教育、医療、子育て支援など、国民の生活に直結する分野に再分配すれば、所得の少ない層の生活が改善され、結果として社会全体の消費が活発化する。

 税金はただの負担ではなく、社会の仕組みを維持し、格差を是正するための大切な手段だ。「増税反対」と叫ぶ前に、再分配の意義を再確認し、持続可能な経済を目指すための議論を深めるべきだろう。

AERA 2024年9月30日号

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