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 台中にある昔ながらの理髪店。店主のアールイ(ルー・シャオフェン)はここで40年にわたってハサミを握り、3人の子どもを巣立たせた。が、ある日長女(アニー・チェン)が店を訪ねると「本日公休」の札が下がり、母の姿がない。一体どこに行ったのか? フー・ティエンユー監督が実家の母をモデルに紡ぐ物語「本日公休」。監督に本作の見どころを聞いた。

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 舞台となる理髪店は実際に私の母の店なんです。8年前にドキュメンタリーを撮るために初めて母にカメラを向け、さらに3年ほど前に母が電話で「出張カットに行く」と話しているのを聞き、「いいストーリーになるかも!」とピンときました。キャリアウーマンでもなんでもない、ごく普通の中年女性の仕事にフォーカスした映画はあまりないと思ったのです。

 アールイの仕事は「お客さんを満足させること」です。平凡かもしれませんが大切なことだと思います。台湾では女性は「天の半分を支える」と言われ、社会的にも非常に重要な役割を果たしています。映画界でも女性の比率はとても高いです。ただアールイ世代の女性は貧しく何かを学びたくとも学校に行けなかった事情もあります。今はより自由で可能性もある社会で私は幸運だと思っています。

 彼女の3人の子どもたちは全員、私自身を投影しています。私も仕事で挫折したり、いろいろうまくいかなかったりすることがある。そんなとき台中の母の理髪店に行くと、シンプルで人間味溢れる関係があると感じました。時間がゆっくりと流れ、豊かでやさしい。本作が人と人の関係をもう一度見直すきっかけになれば嬉しいです。

 実際、私もこの映画を撮ることで自分を見直すことができました。台北の大学に進学して家を出てから、母が毎日どういう風に暮らしているのかをずっと知らないままでいたのです。長く帰らずにいた実家に本当の意味で帰り、母に寄り添えた気がしています。

フー・ティエンユー(監督・脚本)傅天余/1973年、台湾・台中生まれ。国立政治大学日本語日本文学科、ニューヨーク大学メディア生態学・映画研究所卒。作家でもありCMやMVも手掛ける。20日から全国順次公開

 母はいまも元気であの理髪店にいます。映画を観た多くの人たちが訪ねてくれて、若い友人がたくさんできたと楽しそうです。映画に登場するも母の猫で「小虎」といいます。店にいるのでぜひ台中を訪ねてみてください(笑)。

(取材/文・中村千晶)

AERA 2024年9月23日号