今年4月、初めて園遊会に出席された愛子さま。後ろを歩く佳子さまとともに、一人ひとりと目を合わせてにこやかに歓談されていた
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 寅子は私だ。NHKの連続テレビ小説「虎に翼」の結婚の場面にそう思った。同じ頃、新川和江さんの訃報に接し、思考は女性皇族の自己決定権へと巡り──。皇室と虎つばに通底する「女性の自己決定権」問題とは。AERA2024年9月23日号より。

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 8月に95歳で亡くなった詩人・新川和江さんの代表作は「わたしを束ねないで」だ。こう始まる。

〈わたしを束ねないで

 あらせいとうの花のように

 白い葱(ねぎ)のように

 束ねないでください わたしは稲穂

 秋 大地が胸を焦がす

 見渡すかぎりの金色の稲穂〉

 訃報に接して再読した。女性の自己決定権を歌った詩だと、強く思った。NHKの朝ドラ「虎に翼」を見ていたからだ。

「虎に翼」は最初から壮大な意図をもった朝ドラだったと思う。

 一つは大正3(1914)年生まれのヒロイン寅子(ともこ)(伊藤沙莉)を通し、令和を描こうという意図。寅子のモデルは「日本初の女性裁判所長」三淵嘉子(みぶちよしこ)だが、寅子が卒業した明律大学法科の同級生たちの人生も丁寧に描いた。視聴者が「自分」と重ねる入り口を、エリートの寅子だけにしなかった。

 もう一つの意図は、現在と過去の関係を再構築することだと思う。過去と地続きの現在が、刻一刻と歴史をつくっている。そのことを繰り返し訴えていた。戦争は今を生きる人間の「責任」とセットで描かれ、寅子と仲間たちが格闘するのは現在の課題だった。だから「これは私だ」と思えるテーマが必ず巡ってくる。「わたしを束ねないで」と私の関係もそうだった。

自分が消える気がする

 新川さんの死は8月20日に報じられた。「虎に翼」はこの週、佐田寅子と星航一(岡田将生)の結婚が描かれた。再婚同士、経済的に自立した同士。「結婚する必要があるのか」と悩む寅子に、義姉(女学校の同級生でもある)は「ゆっくり考えればいい」という。「結婚となれば星家に住んで、星家の人になるんだから」、と。

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