
ホームドラマ全盛の時代に数々の名作を世に送り出した演出家の鴨下信一氏。食事のシーンを重要視した氏の演出作法について自ら分析してもらった。
<君がどんな食事をしているか、言ってくれ給え。そうしたら君がどんな人間か、ぼくが言ってあげよう>……グルメの聖書「美味求真」を書いたブリヤ・サヴァランはこう言っている。そのひそみに習えば<君のドラマの食事シーンがどんなだか、言ってみてごらん。君の作るドラマがどんなだか、言ってあげよう>。
ぼくは<めし食いドラマ>といわれたホームドラマの全盛期にテレビ・ディレクターとして過ごしたから、食事のシーンはずいぶん演出した。それも身を入れて撮った。重要なのは次の10か条である。
(1)誠心誠意【献立(メニュー)】を作れ。他のことは二の次三の次だ。
演技指導もカメラ割りも、そんなものはどうでもいい。まず何を食べるか、演出家はそれを決めるのが第一だ。ホームドラマの古典で、中身のことをくどくど書かなくてすむから「岸辺のアルバム」を例にとろう。
日本の家族崩壊を鋭く指摘したこのドラマには、一家の担い手(ブレッド・ウィナー)の働き過ぎを大きな原因の一つにする。父(杉浦直樹)は会社人間で、家族と一緒の食事をぜんぜんとっていない。あの80年代だ。今日は絶対帰って皆で晩飯を食おうと妻(八千草薫)や子ども(中田喜子・国広富之)と約束するが……。
さて夕食は何にしよう。中華料理と決めた。中華は“作り置き”ができない。一人ぶんだけ材料をとっておいて、魚一匹焼けばいいという和食の真似ができない。食卓を囲む全員がそろわないと始められない。そして大皿に盛って皆でつつくのが定番だ。
中国の家常料理に、麺を大量に作っておいて、各自自分の好きな汁(海鮮とか肉団子とか、タンメンふうにとかジャアジャア麺ふうにとか)で食べるというのがある。これにしよう。