及川美紀社長にインビューする編集長の鎌田倫子(撮影・写真映像部/松永卓也)

――2029年までに管理職の占める女性の割合を50%にすることを目標に掲げています。しかし、政治でも経済でもクオータ制のように女性の割合が一定になるような仕組みは、数合わせにすぎないという批判がつきまといます。

及川:女性が男性ばかりのエグゼクティブの会議で発言するのは、すごい勇気がいるのをご存じですかと聞きたい。例えば、海外の有名なビジネススクールを出たような、自分より格上の英語圏の人ばかりの会議で、あまり英語が得意でない日本人が一人で、そこで発言するのは勇気がいりますよね。女性が一人というのはそれと同じことが起こっていると思ってください。

 クオータ制の意味は、数合わせをしたいのではなく、女性の発言力を増したいのです。発言する人の言葉が重要に扱われるような環境をつくりたいから。日本の場合、無理にでもそういう環境をつくらないと、女性の意見も男性化してしまいます。

 そんな状況もこの5年くらいでだいぶ変わってきました。そうした会議の場にも女性が増えてきていますよね。ただ、地方と東京では異なるように思います。

――最近では、女性は地元を出て首都圏や都市部で働くと戻らないことが「問題」としてクローズアップされています。女性が地方に戻らないのは女性の問題なのでしょうか。

及川:マイノリティーがマジョリティーになっていく過程で、それまでマジョリティーだった人たちは居心地が悪くなることがあります。阿吽の呼吸で伝わっていたことも説明する必要が出てきたり、自分たちが誰かに任せていた仕事をともに担わなければならなくなったり。例えば、家に帰ったら何もしなくてもごはんが出てきた生活が、女性も働くようになると互いに協力が必要になる。

 変化に対して一緒に乗り越えていかなければならないときに、よく女性が「がんばれ」と言われますよね。女性活躍推進もそうです。でもがんばれと言われた女性に非はなくて、社会や企業のシステムの問題だと私は思っています。仕組みを変えなくてはいけない。

 東京は、企業がグローバル化して、投資家の外圧や世界からの目などもあるから、仕組みを変えていく意識があります。一方、地方だと、これまでの仕組みを変える必要がないまま今に至っている地域もある。

 でも、これから人口が流出して、少子高齢化の中で働く人が採れなくなって、これまでの仕組みを疑わないといけないときがくる。地方自治体でも、新しい仕組みをすでに作っているところは人口が流入していますよね。一口に地方といっても変わってきている地域と、まだ変わり切れていない地域があります。

 活躍できないことを女性個人のせいにしない。それは大事なことだと思います。

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地元が嫌いなわけではなく「ここにはいられない」