『SAPIO』から『創』まで多種多様な媒体で連載を持ち、現代日本の論壇を代表する作家の佐藤優さん。昨年12月、彼は『外務省犯罪黒書』という本を上梓しました。今はなき月刊誌『現代』での連載をまとめたものですが、なんと同書は"自費出版本"で、発売から約2週間後には重版となっています。著者の知名度がいくら高いとはいっても、自費出版の書籍が短いスパンで版を重ねるのは、異例といえるでしょう。
タイトルから想像できるとおり、同書は外交官たちの「犯罪」「破廉恥な実態」を告発する一冊。たとえば、「派遣先で飲酒運転し、現地住民をひき逃げしておきながら、後に別の国で大使にまで昇進した外交官」や、佐藤さん自身も手を染めてしまった在ロシア日本大使館内の不正蓄財システム「ルーブル委員会」などを克明に描写しています。
それらの詳細は是非『外務省犯罪黒書』を手に取って読んでいただくとして、今回は日米関係で時折問題となる「沖縄密約」について、同書に収録されている故・吉野文六さんへのインタビューを取り上げたいと思います。
吉野さんは、佐藤氏の先輩にあたる外交官で、沖縄密約の文書に署名した人物。後に、毎日新聞記者であった西山太吉さんが、外務省事務員との個人的な関係からこの文書を入手し報道したことで「西山事件」として裁判沙汰にまでなりました。ただ、吉野さんによると、報道で明らかにされた日本の負担額である400万ドルは「機密のごく一部にすぎない」そうです。このお金は米軍撤退にあたり、軍用地を原状回復するための費用。もちろん、本来は米国が支払うべきものとはいえ、一応は使い途がはっきりしたコストです。
しかし、より大きな問題であるのが、原状回復費の80倍にあたる3億2000万ドルが日本から米国へ秘密裏に拠出されている点。こちらは大蔵省(当時)が米国側の担当者と協議し支払われた"返還費用"ですが、吉野さんは「一つ一つ精査されたような額ではありません」と説明します。西山さんの報道で明らかとなった400万ドルが、かえって不明瞭な3億2000万ドル拠出の「隠れ蓑」になってしまうという、皮肉な結果となってしまったのです。
吉野さんは、この経緯について次のように総括します。
「400万ドルの復元費用の肩代わりはごく一部にすぎない。沖縄協定の公表されていない交渉内容のなかには、もっと重要で、もっとカネのかかった問題がたくさんあっただろうと僕は思っています」(本書より)
なお、このインタビューの次の章では、西山太吉さんへのインタビューも収録されています。日米関係、沖縄の基地問題を語る際に避けて通れない「沖縄密約」。その当事者たちの証言を、ぜひご自身の目で確かめてみてはいかがでしょうか。