自分の滑りを映像にまとめたビデオパートの制作にも取り組む。2023年には東京のストリートで撮影したビデオパートを公開した[撮影:村松賢一/hair & make up:Taro Yoshida/costume:Nike SB]
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 パリ五輪のスケートボード男子ストリートで五輪2連覇を成し遂げた堀米雄斗選手。大逆転で金メダル獲得の裏側に迫った。AERA 2024年9月16日号より。

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──パリ五輪のスケートボード・ストリートは、45秒間で複数の技を盛り込むランを2回、難易度の高いひとつの技を披露するベストトリックを5回行い、点数が高かったラン1回、ベストトリック2回の得点が採用される方式で行われた。7月29日夕方5時、快晴のコンコルド広場で始まった男子決勝で、堀米は上々の滑り出しを見せる。ランの1本目をミスなくまとめ、89.90点。2回目はミスが出たものの、ベストトリックの1回目でも94.16点という高得点をマークする。もう1本無難に決めれば十分にメダルを狙える位置だ。だが、堀米がベストトリックの2本目以降に選んだのは、極めて難度の高い技だった。ボードの前側を叩いて跳びあがり背中側から270度回転、テールと呼ばれる板の後ろの部分でレールに乗り、スライドして着地する。ノーリーバックサイド270ブラントスライド。世界で堀米にしかできないと言われる大技だ。

悔いを残したくない

堀米「本当は、メダルを狙ってもう少し守りにいく滑りをしようと思っていたんです。でも、周りが次々に難しいトリックに挑戦していて、それじゃ勝てないなって。2本目のスタート地点に戻ったときに決めました。乗れる確率は少なくても、悔いを残さないように、優勝を狙ってチャレンジすることにしました。オリンピック会場では練習も含めて1回もトライしていなかった技ですが、アメリカではずっと練習してきたし、五輪を決めたブダペストの予選でも成功しています。自信はありました。ただ、他の選手がすごい技を決めるなかで2本目、3本目、4本目と失敗して、焦りも出てきた。4本目をミスったときは本当にヤバイと思ったけれど、5本目のスタートに立ったときには逆に吹っ切れて、自然と焦りもなくなりました」

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川口穣

川口穣

ノンフィクションライター、AERA記者。著書『防災アプリ特務機関NERV 最強の災害情報インフラをつくったホワイトハッカーの10年』(平凡社)で第21回新潮ドキュメント賞候補。宮城県石巻市の災害公営住宅向け無料情報紙「石巻復興きずな新聞」副編集長も務める。

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予選で戦っているときからケガは続いていた