作家、コラムニスト/ブレイディみかこ
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 英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。

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 7月に政権を取ったばかりの英労働党が、7人の労働党議員を党員資格停止処分にした。政府の方針を発表する「国王演説」に、公的扶助の増額を第2子までとする上限の撤廃が含まれていなかった。スコットランド国民党は議会に「国王演説」の修正案を提出、採決が行われ、労働党議員7人が賛成票を投じたのだ。スターマー首相のメッセージはこうだろう。「異論は許さない」。7人の議員は、今後6カ月、党員資格を剥奪された。

「これは極端です。誰もこんな権威主義は見たくない」

 採決での投票を棄権したのでお咎めを受けなかった労働党議員は、仏紙ルモンドに語っている。「極端」「権威主義」という言葉で思い出すのは、2015年に出版されて話題になったタリク・アリの『The Extreme Centre:A Warning』という本である。この中でアリは、極端に先鋭化した中道の登場について警告した。それは左派と右派の一部を取り込んで広がっていく旧来の懐の深い中道主義ではない。政治思想や理念ではなく、権力の奪取と維持を存在目的として絶対視し、どのような真剣な批判も背信行為と見なす権威主義的組織なのだとアリは分析していた。

 本の中で「極端な中道」の例として出てくるのはブレア時代の労働党やフランスのマクロン政権だったが、スターマーの労働党は「エクストリーム・センター(極中)」の特徴をいよいよ増幅させたように見える。コービン前党首や映画監督のケン・ローチを始め、党内左派を次々とパージしてきたのは選挙に勝つためだったろうが、政権を取ってからも同じ手法を取っているからだ。労働党は、左派から中道までの議員や党員を含む「ブロード・チャーチ(広教会派。教義をできるだけ広義に、自由に解釈することを主張する立場)」と呼ばれてきたが、いまや不寛容で包括性のない中道という、言葉本来の意味から考えれば不可思議な存在になった。

 昔は、左翼と右翼の尖った少数集団があり、その間になだらかな山を描く形で中道がいた。欧州で中道が細って政治の三極化が進んでいるのは、中道が穏健な架け橋になることをやめ、尖り始めたからではないか。

AERA 2024年8月26日号