2024年、夏。今年も甲子園で高校球児たちの熱戦が繰り広げられている。第106回全国高校野球選手権大会の名シーン、名勝負を振り返る。今回は、8月17日の智弁学園(奈良)-小松大谷(石川)について。
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小松大谷の西野貴裕監督が「信じられない……」と言い、92球で完封した西川大智が「やってしまった」と最高の笑みを浮かべた大阪桐蔭戦の勝利から中2日。3回戦での小松大谷は、背番号18をつける中田凛を先発マウンドに送った。
1回裏、甲子園初マウンドの2年生左腕が近畿を代表する智弁学園の打線につかまる。2死三塁から4番・中道優斗に左前適時打を浴びて1失点。1点リードで迎えた3回裏、長打2本で同点とされて降板する。その後、小松大谷は継投策に出るのだが、主将・知花琉綺亜が「チームとして、打撃は『つなぎ』を意識している」という智弁学園に、4回裏と5回裏に2点ずつを加えられて点差を広げられた。
エースの西川がマウンドに上がったのは7回裏2死一、二塁の場面だ。大阪桐蔭の強力打線を手玉に取った投球術で、三塁ゴロに討ち取ってピンチをしのぐ。8回裏は空振り三振を含む3者凡退に抑えた。131キロのストレートにショートフライに討ち取られた7番・知花は西川の投球をこう語るのだ。
「タイミングをずらすピッチングにやられた」
甲子園のマウンドで最後まで右腕を振り抜いた小松大谷のエースが本音を漏らす。
「もうちょっと『投げたかったな』というのが正直なところです。智弁学園の打線とも、もっと対戦したかった」
ただ、たとえわずかなイニングでも、西川のピッチングには勝利を諦めない姿勢が詰まっていた。9回表、主将で4番に座る東野達の左前適時打で奪った「1点」は、最後まで試合はわからない、そんな空気を作り上げた。