『親子で哲学対話~10分からはじめる「本質を考える」レッスン』苫野一徳 大和書房
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 世界や人生における「本質」を追求する学問「哲学」。たとえば子どもから何気なく投げかけられる「『大人』ってどんな人?」「『幸せ』って何?」なんて質問も、突き詰めれば哲学だと言えるかもしれません。だからこそ、不意に聞かれてもその本質をつかめず、答えに窮してしまう人も多いのではないでしょうか。

 けれど、哲学者の苫野一徳(とまの・いっとく)さんによると「コツさえつかめば、親子の気負いない会話の中で、ちゃんと"答え"を見つけられる方法がある」といいます。そのレッスン法が紹介されているのが、苫野さんが著した『親子で哲学対話~10分からはじめる「本質を考える」レッスン』です。一日10分ほど親子で会話して答えを見つけあう「哲学対話」をおこなうことで、誰でも「本質を考える力」を身につけられるといいます。

 実際にはどのようにおこなえばよいのでしょうか? 同書には具体例として、苫野さん自身が娘さんとおこなった哲学対話が収められています。きっかけは、娘さんが思春期まっただなかの小学4年生だったころ、「パパ、寝る前にちょっと哲学対話やるよ」と言ってきたこと。それから週に何度かのペースで、苫野さん親子は夜、寝る前にベッドの上に寝転がりながら、哲学対話を通してものごとの本質を言葉にしていく「本質観取」をおこなうようになりました。

 たとえば、ある日のお題は「幸せ」について。まずは幸せだなあと思うときの具体例を娘さんに問う苫野さん。「おいしいものを食べてるときでしょ、好きな絵を描いているときでしょ、あと、好きな人と一緒にいるとき......」(同書より)と挙げていく娘さん。会話を続けるうちに、「幸せなときは自分で味わってるって感じがある。それに対して"うれしい"は受け身で瞬間的に思うだけ」と気づきを得ていきます。そうして最終的には、「幸せとは、満たされていることの味わいである」との本質にいきつきました。

 他にも同書には、「人間の『愚かさ』について」「ファッションと校則」「『よい行い』って、なんだろう?」「『愛』について」など、苫野さん親子で繰り広げたさまざまな哲学対話が収録されています。

 哲学対話とは思考のトレーニングであるだけに、慣れるまでにはちょっぴり訓練が必要そうです。けれど、身につけることで「自分を深く知ることができる」「言語力が高まる」「思考力が鍛えられる」「本質を見抜く力がつく」といった力を伸ばせるといいます。なにより、日々の生活の中で子どもと対話する時間を持つのは貴重なことで、後から振り返ったときに大きな宝物になってくれるでしょう。一日10分から始める哲学対話。同書を参考に、皆さんも始めてみてはいかがでしょうか。

[文・鷺ノ宮やよい]