この試合の見どころは横浜の主砲、4番・紀田との対戦。最初の打席は1球目ストライクから4球ボールが続いた。2打席目は初球から、3打席目は1ストライクからボールが4球。4打席目の八回2死二、三塁の逆転のピンチではベンチの作戦で敬遠を選択。次打者を遊ゴロでピンチをしのいだ。
「紀田選手の3打席目までは勝負にいって結果的に四球でした。後続に打たれたりして、大崩れしなかったのは運がよかった」
那覇商陣営の意図しない効果もあった。紀田の前後の打者が不調だったのだ。3番・斉藤は右肩を痛め、5番・多村は左手首をねんざしていた。横浜は主軸の焦りがチームに広がって、最後まで試合の流れをつかめなかった。
「勝ったというより大舞台の試合を投げ切った安堵感のほうが強かったですね」
卒業後、三菱重工長崎の硬式野球部で活躍。引退後は社業に専念する傍ら少年野球教室の指導も行っている。
「あの試合で、勝負は時の運というのが本当にあるんだなぁと実感しました。それと今回の取材趣旨でもありますが、“番狂わせ”というのはただ単に周りの予想と結果とのギャップでしかない。勝負事に絶対はなく周りの予想が外れることもある。つまり、何事も決めつけないで、自分を信じ、これまでやってきたことを出し切れば、よい結果に結びつくかもしれない。それが自分の教訓になっています。それと一人ぼっちで戦っているわけではありません。大切な仲間がいたから勝てたのです」
第76回2回戦 那覇商(沖縄)vs.横浜(神奈川)
横 浜 010 100 000 2
那覇商 101 010 01X 4
(内山賢一)
※AERA増刊「甲子園2024」から