2024年、夏。今年も甲子園で高校球児たちの熱戦が繰り広げられている。第106回全国高校野球選手権大会の名シーン、名勝負を振り返る。今回は、8月9日の金足農(秋田)ー西日本短大付(福岡)について。

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 金足農(秋田)を後押しする手拍子が、バックネット裏にも広がる。大会3日目の第2試合、6点差で迎えた9回表の攻撃だ。8回表まで無得点に抑えられていた金足農は、西日本短大付の先発エース・村上太一を攻め立て4点を返す。点差がジワジワと縮まる甲子園球場が、熱を帯びていくのが伝わってきた。

1回、ピンチでマウンドに集まる金足農の選手たち(撮影/写真映像部・松永卓也)
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西日本短大付のエース・村上太一(撮影/写真映像部・松永卓也)

なおも2死一、二塁と攻める金足農は、主将でトップバッターを担う高橋佳佑が打席に立つ。

9回、ホームを踏みベンチに戻る金足農・薮田(撮影/写真映像部・松永卓也)
9回、盗塁に成功する金足農代走・佐藤涼(撮影/写真映像部・松永卓也)

「2番打者から始まった攻撃。それまで打つことができなかったんですけど、どんどんヒットが出始めて、仲間から『ケイスケにつなぐぞ!』と声をかけられて……」

 観客の応援に「背中を押してもらっている」とも感じたという高橋は、バットを握る両手に力を込めた。

9回、打席に立つ金足農・高橋(撮影/写真映像部・松永卓也)

 その場面を迎え、2018年夏の記憶がフラッシュバックする。第100回大会の横浜(南神奈川)との3回戦、8回裏に飛び出した逆転の3点本塁打で金足農は勝利して勢いそのままに甲子園準優勝を果たすのだが、その値千金の一発を放ったのが高橋の実兄で、現在は母校のコーチを務める高橋佑輔だった。

 6年前の再来なるか――。

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