高橋の狙い球は、ストレートだった。初球、その狙っていたはずの球を見逃した。
「手が出なかったことを一番後悔している」
1ボール2ストライクからの4球目、変化球に体勢を崩されながら放った飛球が、二塁手のグラブに収まって試合は終わった。
「最後、打つことができなくて申し訳なかった……」
初戦敗退の現実を受け止め、高橋は唇を噛んだ。それでも、金足農が見せた怒涛の攻撃に、あの夏に吹いた「カナノウの風」を感じた。
弟の最後の打席を、高橋佑輔コーチはこう振り返る。
「あの打席は一生の思い出になると思う。あの経験があるから……そう思えるように歩んでいってほしい」
18年夏の準優勝投手である吉田輝星(オリックス)を兄に持つ2年生エースの吉田大輝は、7回5失点で降板した。その経験もまた、金足農にとっては財産だ。
この夏を経て、雑草軍団はさらに強くなる。
(佐々木 亨)
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