著作権をめぐる紛争

 OpenAIは一部メディアから著作権侵害を理由に訴えられているが、その一方で別のメディアとは戦略的な提携関係を結んで相互のメリットを模索している。

 グーグルも今後、このOpenAIと同じ道を辿りそうだ。

 これまでグーグルはメディア企業が所有する記事などのコンテンツを検索結果として表示してきたが、そこからトラフィックをメディア各社のサイトへと転流させることで何とか折り合いをつけてきた。

 しかし今後、検索の結果がAI Overviewという形でグーグルのサイト内で完結してしまえば、トラフィックはメディアのウェブ・サイトに流れなくなる。メディア企業から見れば、AI Overviewはコンテンツへの完全なタダ乗りということになり、今後グーグルへの不満が募っていくだろう。

 そうした中でメディア企業が自らのコンテンツを守るには、グーグル検索がウェブ全体を探し回る際に使う「クローラー」と呼ばれるソフトウエアをブロック(阻止)したり、グーグルのインデックス登録を拒否したりするなどの方法がある。

 しかしこれらの手段に頼ると、そもそも自分達のサイトがグーグルの検索結果としてリスト表示されなくなるので、メディアにとって自分で自分の首を絞めることになる。

 このため米国の新聞社2000社余りが加入する業界団体「ニュース/メディア連合」は司法省と連邦取引委員会(FTC)に出した書簡の中で、グーグルによる(AI Overviewなど)コンテンツの不正流用について調査するよう求めている。

 またメディア関係者の中には連邦議会の議員らに働きかけて、自分達のコンテンツをグーグルなどの生成AIから守ろうとしている人達もいる。

 しかし、それらの取り組みが功を奏さなければ、今後一部のメディアはグーグルを著作権侵害などの理由で提訴するかもしれない。

 その一方でOpenAIのケースと同様の戦略的な提携関係を結んでいくメディアも出てくるだろう。つまりメディアはグーグルのAI Overviewに自分たちのコンテンツを提供し、グーグルはその対価をメディアに支払うという構図だ。

 またメディア側の自助努力としては、いわゆるサブスクリプション(有料購読の契約)を増加させて、これらの読者と直接結びつくことにより、グーグル検索への依存度を減らしていく方法も真剣に模索されている。

 いずれにせよ、グーグルは今後かなり難しい舵取りを迫られることになりそうだ。

『イーロン・マスクを超える男 サム・アルトマン』(小林雅一・著/朝日新聞出版)から

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小林雅一

小林雅一

KDDI総合研究所リサーチフェロー。情報セキュリティ大学院大学客員准教授。

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