AERAで連載中の「この人のこの本」では、いま読んでおくべき一冊を取り上げ、そこに込めた思いや舞台裏を著者にインタビュー。
大衆化した過激主義の現状を潜入捜査で解き明かすノンフィクション。今回は、気候変動懐疑論、トランスフォビア、ワクチン陰謀論など、日本のSNSにも散見される言説を生み出してきたグループに潜入。巧みなオンライン戦略によって、過激主義とは無縁と思っていた人たちが過激思想に取り込まれていく様子が描かれる。トランプが再台頭するいま、必読の一冊『ゴーイング・メインストリーム 過激主義が主流になる日』。著者であるユリア・エブナーさんに同書にかける思いを聞いた。
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1991年ウィーン生まれのユリア・エブナーさん(33)は戦略対話研究所で、過激主義、偽情報、ヘイトスピーチなどを研究しているが、その調査の仕方が尋常ではない。ひとつ間違えると命を狙われるような危険な方法である。
「研究者やジャーナリストという正体を明かして、過激主義者にインタビューすると嘘をつかれます。政治に全く関心のない人や教育レベルが非常に高い人、恵まれた環境で育った人が、なぜ過激主義に惹かれるのか、そのモチベーションを知るには潜入捜査しか方法がありません」
とはいえ、エブナーさんは潜入捜査のプロではない。だから正体がばれたこともあり、そのために何十回と転居を余儀なくされた。
潜入して分かった最も印象的だったことが過激主義者の戦略であるという。
「例えば、彼らはZ世代の若者をリクルートしたいと真剣に考えています。私は白人ナショナリスト運動の〈ジェネレーション・アイデンティティ〉に潜入しました。また、白人ナショナリスト運動のパトリオティック・オルタナティブの創立者であるマーク・コレットとも直接話すことができました。この二つの組織は若者をグルーミングし、急進化させる極めて巧妙な戦略を持っています」
コレットは政治にまったく関心のない若者をリクルートするべく、オンラインゲームのトーナメントを開催するという。そこから巧妙にグルーミングし、引き込んでいく。