『不倫の心理学 (新潮新書 1046)』アンジェラ・アオラ,安達 七佳 新潮社
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 近年、ますます激化する芸能人の不倫バッシング。不倫騒動を起こした芸能人は大幅なイメージダウンに繋がるだけでなく、仕事を干され芸能生命の危機に陥ることさえある。また、一般人にとっても、不倫は家庭を崩壊させ社会的信用を失いかねないリスクある行為だ。

 しかし、このようなリスクを理解しておきながら不倫をする人間は後を絶たない。人はなぜ不倫をするのか。『不倫の心理学』(新潮社)は、あらゆる統計データや心理学の観点から不倫をする人の行動心理を紐解いた一冊だ。同書の著者でスウェーデンの心理学者であるアンジェラ・アオラ氏は、自らも夫の不倫が原因で離婚した過去を持つ。同書では客観と主観の両方の見解を追及するという目的から、実際に不倫を経験した2人の男女に取材。彼らが不倫に走った理由や顛末を赤裸々に綴りながら、心理学者としての著者の観点から解説している。

 そもそもどこから不倫や浮気とみなすのだろうか。浮気はよく感情的浮気と肉体的浮気の2種類に分類される。感情的浮気とは、性行為を伴わず精神的な面でパートナー以外の相手に恋愛感情を持つことだ。一方の肉体的浮気とは、単純にパートナー以外の人と性行為をすることを指し、必ずしも感情的な繋がりを必要としない。例えば「感情が伴わないセックスは浮気にならない」と考える人もいるだろう。しかし著者は、多くの人にとってセックスと感情を切り離すことは難しいと述べている。

「これから関係を持とうとしていること、あるいはすでに関係を持ったことをパートナーに話せないと感じたら、それはもう浮気である。しかし、浮気をする人の実に90%が自分の境遇のせいにして正当化する」(同書より)

 肉体的浮気であれ感情的浮気であれ、浮気をする人はパートナーを裏切り傷つけることに後ろめたさを感じることが多い。そのため自分が冷酷な人間だと認めるよりも、何かのせいにして自分の行動を正当化する楽な道を選ぶのだ。

 それでは、どれほどの人が浮気をした経験があるのだろうか。調査によって数値は多少異なるが、同書では未婚カップルの約30~40%、婚姻者の約20%が少なくとも1回は不貞行為をした経験があるという。浮気をされた場合や家族や友人が当事者になった場合も含めると、さらに多くの人たちが浮気の問題に直面していると考えられるから驚きだ。

 また、同書では多くの夫婦やカップルの悩みである「セックスレス」解消のヒントも与えてくれている。セックスレスの原因としてよく挙がるのが「パートナーと長く親密な関係を過ごすほど相手に性的な欲求を感じなくなる」というもの。人は一緒に過ごした時間が長いほど、相手に対して強い安心感を覚える。しかし著者は、人間には相反する欲求があるという。

「人間は安心を求める。それは明らかだ。安心は生命が生き残るための一種の必要条件だ。しかし人は快楽や興奮も求めている。肝心な点は、この2つの欲求が拮抗していることだ」(同書より)

 互いをよく知っているからこそ生まれる安心感と、未知のものに直面することで湧き上がる興奮の両方を同じパートナーから得ることは可能なのか。同書では、ベルギーのカップルカウンセラーで作家のエステル・ペレル氏の著書『セックスレスは罪ですか?』から解答を導き出している。

「相手を長く愛したければ見慣れた関係に未知の要素を取り入れる必要がある。普段とは違う角度から、つまり少しでも未知で見慣れない存在として相手を見ることができれば可能になるのだ」(同書より)

 また著者は人間の矛盾する2つの欲求を認めたうえで、パートナーシップのあり方について以下のように考えを述べた。

「人は実際には矛盾する2つを求めているのだ。安全への欲求は相手との距離をなくしたいと思っている。不確実なことは知りたくない。しかし、エロティシズムは未知のもの、つまり不安にさせるもので突き動かされる。

火には酸素が必要なのと同じように、パートナーシップにもある程度の緊張感と不確定要素が必要なのだ」(同書より)

 安定と不確実性は、どちらも人間が本能で求める欲求だ。だからこそパートナーと安定した関係を維持しているにもかかわらず、刺激を求めて不倫に走る人も多い。逆を言えば、その両方を上手くパートナーに与えることができれば、浮気のリスクを軽減することができるかもしれない。

 同書では他にも、脳の構造と浮気の関連性や他の一夫一妻制の動物を例に、人間は本当に一夫一妻制であるべきなのかを追及している。実際に不倫をされた側である著者の主観と客観を交えた見解は、不倫に関して素朴な疑問を抱えている人はもちろん、当事者として悩んでいる人へ、現状を進展させるための何らかのヒントを与えてくれるだろう。