日本には中国人72万人が住むが、それらが迫害を受けないよう保護する一方、一部が破壊工作などをしないよう監視する必要も出る。中国在留の日本人17万人が帰国するには旅客機約500便を要するが、運航に敵の中国の承諾を得られるかなど難問が多い。

 幸い、台湾人の大部分は戦争の原因となる独立を望んでおらず、台湾行政院の大陸委員会の22年10月の世論調査では86.3%が独立でも統一でもない「現状維持」を望んでいる。大陸と経済で一体化して繁栄している台湾の人々は大陸と絶縁したり、戦争になったりすることを望まないが、統一して言論の自由が阻害されてはうれしくないから「今のままで良い」と思うのは当然だ。昨年10月の中国共産党大会で習近平(シーチンピン)総書記は「我々は未来の平和的統一を勝ち取るが、武力行使の放棄は約束しない」と述べた。「未来の平和統一」は当面の現状維持とほぼ同意語だ。武力統一は中国に百害あって一利もないことは習氏にも分からないはずがない。

 日本にとっても台湾の現状維持は経済に有益であるだけでなく、戦争を避けるのが安全保障の要諦(ようてい)であることを改めて考えさせる。(軍事ジャーナリスト・田岡俊次)

AERA 2023年1月16日号より抜粋

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