AERA 2024年7月29日号より

ここ数年全く休み無し

 平日の日中はレジが空く隙もないほど、ひっきりなしに客が訪れる。このため、商品を仕入れても陳列に回る店員を確保できない。それで、商品の搬入は深夜の閉店時間帯に行うことにした。その数時間前までは店の奥で仮眠して体力を回復させ、オーナー自らが商品の陳列作業に臨む。

 このオーナーを知ったのは、コンビニを評価するネットの投稿欄だった。この店に限らず、ネットにはコンビニ店員の接客態度をなじる投稿であふれている。たいていは「言われっ放し」だが、このオーナーは違った。店員の態度を詫びつつ、「人手不足のここ数年全く休み無く働いている状況が現状です」(原文ママ)と事情を説明し、客に理解を求める発信をしていたのだ。

 取材協力を得るため、筆者は何度もこのコンビニに通い、レジに立つ男性の姿も見てきた。社交的で接客の仕事が好きなのは傍から見ていてもよく分かった。「なぜもめたのか。次に来店された時には友人になれるよう対応する努力は常に続けています」と話す男性。ネットに投稿した理由については「店員も長時間勤務でストレスはあると思います。こうした事情はお客さんにも知ってもらいたいと思いました」と吐露した。

 ただ、シフトに関しては経営戦略として採用人数をぎりぎりに抑えている面もあるという。スキルの低い店員が多くなれば、人件費が経営を圧迫するからだ。男性は言う。

「私の場合、チェーン本部に働かされている、という感じは全くありません。自分の裁量でやるからにはできる限り効率よく運営したい、という思いだけです」

 あまりの長時間勤務を心配する常連客から、「大丈夫なの」「今はまだ若いからいいかもしれないけど……」と声をかけられることもある。男性は苦笑しながらこう話した。

「先のことを考えれば、今の働き方だと続けられなくなるのは分かっているんですけどね。(自分の働き方は)人としておかしいという自覚もあります。でもこのやり方が、自分の生活スタイルになってしまっているんです」

(編集部・渡辺豪)

AERA 2024年7月29日号より抜粋

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渡辺豪

渡辺豪

ニュース週刊誌『AERA』記者。毎日新聞、沖縄タイムス記者を経てフリー。著書に『「アメとムチ」の構図~普天間移設の内幕~』(第14回平和・協同ジャーナリスト基金奨励賞)、『波よ鎮まれ~尖閣への視座~』(第13回石橋湛山記念早稲田ジャーナリズム大賞)など。毎日新聞で「沖縄論壇時評」を連載中(2017年~)。沖縄論考サイトOKIRON/オキロンのコア・エディター。沖縄以外のことも幅広く取材・執筆します。

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