共和党大会が開かれている米中西部ウィスコンシン州ミルウォーキーの会場周辺では「神」という言葉が頻繁に見られた。「イエス・キリストは私の救世主、トランプは私の大統領」と書かれたTシャツやハットが会場周辺で売られている。ニューヨークから来たという年配の女性は「プロ・ゴッド(神の支持者)」と書かれたTシャツを着ていた。キリスト教信者が多い保守的なトランプ支持者らが、「神」が降臨し、命を奪ったかもしれない銃弾をトランプ氏からそらした「奇跡」が起きたと信じても不思議はない。
民主党政権への不満
大会会場近くで、トランプ支持者の声を拾った。人工妊娠中絶反対グループ「プロ・ライフ・ウィスコンシン」理事長のダン・ミラー氏は「民主党と左派は、トランプの命を奪おうとした。こうなったら、トランプを11月に勝たせるしかない」と話す。米連邦捜査局(FBI)は、狙撃したトーマス・マシュー・クルックス容疑者(20)=死亡=の動機について明らかにしていない。が、トランプ支持者の一部は、事件は民主党の仕業だと思っていることがよく分かる。
バイデン民主党政権に対する強い不満も、トランプ氏人気を強力に後押しする。「バイデンは、アフガニスタン撤退は成功だったと主張している。多くの命が奪われたのに」「バイデン政権の下、物価が上がり過ぎてシングルマザーにはつらい」など、大会ステージで涙を浮かべながら訴えるスピーカーも少なくない。表情には、怒りと不満がむき出しだ。参加者はブーイングで応じ、バイデン政権への敵意を共有する。
会場の外は異常に静か
元警官・消防士のデイブ・ウィロビー氏は、会場外で「民主党は、全てを台無しにした」と書かれた黒いTシャツを着て通行人に話しかけていた。手にしたプラカードには「トランプに神のご加護を!」とある。
「民主党とその政策が、大嫌いだ。国境を越えて入ってくる不法移民の問題は、国家の安全保障に関わる。バイデンは、すぐに犯罪を起こす彼らを入れっぱなしだ。米国が世界の警察である必要もない。警察予算の削減も反対だ。民主党政権下、愛する自由が失われている!」
と怒りを露わにする。
16年に取材した共和党大会(中西部オハイオ州クリーブランド)に比べると、会場外は異常に静かだ。当時は、トランプ氏の政策に反対するリベラル派の活動家や市民が大会会場近くの広場で連日デモを繰り広げていた。トランプ支持者グループと対立し、警察官が衝突を阻止していた。今年は、反トランプ派のデモは鳴りをひそめ、ウィロビー氏のような親トランプ派の方が目立つ。(ジャーナリスト・津山恵子=米ミルウォーキー)
※AERA 2024年7月29日号より抜粋