東浩紀/批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役
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 批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。

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 東京都知事選が終わった。結果は事前の予想どおり小池百合子氏の圧勝だったが、開票後に意外な混乱が続いている。2位の石丸伸二氏、3位の蓮舫氏への批判が噴出しているのだ。特に蓮舫氏をめぐる状況が過熱している。

 蓮舫氏は過去に参院選東京選挙区で170万票を獲得したこともある強い政治家である。今回も小池氏と2強対決と言われた。それが失速し130万票に届かなかった。小池氏の半分に届かなかっただけでなく、2位の石丸氏にも40万票近く引き離された。この結果を受けて蓮舫氏を批判する人々が多く現れ、逆に支持者が反撃するというかたちで場外乱闘が続いているのである。

 政治家であっても不当な人格攻撃は許されない。SNSには女性蔑視に近い誹謗中傷も見られる。蓮舫氏はそれらに果敢に反論しており、その点では筆者も氏の側に立つ。

 しかしそれが議論の萎縮につながってはならない。立憲は最近連戦連勝だった。政権交代を望む声も高まっていた。

 それだけに今回の数字は多くの人に衝撃を与えた。蓮舫氏は立憲をわざわざ離党し共産の強い支援を受けた。フェス風の演説や「ひとり街宣」など左派色を前面に出した。その判断が正しかったのか、当然検討は必要になる。

 出口調査によれば、蓮舫氏は年配に強く、石丸氏は若者に強かったとされる。高齢の岩盤支持層を固める戦略は、結果的に多くの無党派層を逃すことになったのではないか。もしリベラルが本気で政権を取りたいならば、そのような分析と反省が不可欠なはずだ。

 その点で、いま議論が蓮舫氏個人の敵か味方かに収斂しつつあるのは不健康である。氏自身にも冷静さが求められる。

 一連の騒動のなかで、7月16日に、蓮舫氏をSNSで批判した朝日新聞記者に対して、氏自身が新聞社への抗議と訴訟を示唆し発言を撤回・謝罪させるという一幕があった。元投稿を読んだが、政治姿勢への論評であり誹謗中傷には見えない。蓮舫氏は落選したとはいえいまだ有力な政治家である。その影響力をこのようなかたちで行使するのは公正とは言えない。

AERA 2024年7月29日号

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東浩紀

東浩紀

東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数

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