柔道男子100キロ超級・斉藤 立(左) vs. テディ・リネール:公式戦では、2023年の世界選手権、24年のグランドスラム(GS)アンタルヤ大会で2度対戦し、どちらもリネールが勝利/決勝は8月2日午後6時9分~(日本時間3日午前1時9分~)(写真:L’EQUIPE/アフロ)
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 世界の国・地域から約1万人もの選手が参加するパリ五輪。多くの試合が行われるが、これまで決着がついておらず、パリの地が、ついに勝者を決する「巌流島」となりそうな歴史的対決も予想される。特に「柔道」のライバル決戦を見逃すな。パリ五輪を特集したAERA 2024年7月22日号より。

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 無観客の日本武道館で行われた東京オリンピックの柔道。日本は男子5、女子4個の金メダルを獲得したが、混合団体でフランス相手に苦杯を喫した。フランスの柔道愛好家たちは、この勝利に欣喜雀躍(きんきじゃくやく)したという。

 そして今度はパリに舞台を移しての柔道日仏決戦、もっとも注目されるのは100キロ超級の斉藤立(たつる)とフランスのテディ・リネールの対決だ。

 斉藤の父は88年ソウル五輪の95キロ超級で優勝した斉藤仁(故人)。親子2代での最重量級での制覇だけでなく、この階級での日本の金メダルは08年の北京大会の石井慧まで遡(さかのぼ)らなければならず、まさに日本の「威信」をかけての戦いとなる。

 これまで日本の選手たちを次々に下してきたのがリネールだ。フランスの英雄は、12年ロンドン、16年リオデジャネイロと100キロ超級を連覇。東京大会は銅メダルに終わったが、昨年のドーハ世界選手権で優勝し、復活を印象づけた。

 このふたりの組み合わせをめぐる駆け引きはすでに始まっている。6月22日、斉藤は南米ペルーで行われた大会に急遽(きゅうきょ)、片道30時間をかけて移動して出場、この大会で優勝して世界ランキングを7位から6位に上げた。

 なぜ、30時間もかけてペルーの小さな大会に出場したのか? それはリネールが6月上旬にスペインで行われた格付けの低い大会で優勝し、斉藤を抜いて6位に浮上していたからだ。

 7位に落ちた斉藤はこのまま五輪に出場してしまうと、昨年の世界選手権でリネールと優勝を分け合ったロシア出身のイナル・タソエフ(個人資格の中立選手)と準々決勝で当たる公算が大きくなっていた。

 斉藤とタソエフが戦えば、漁夫の利を得るのはリネール。リネール陣営の思惑を知った日本は、斉藤をペルーへと派遣し、ランキングでリネールを抜き返したのだった。果たしてパリはふたりにとっての「巌流島」となるのか? 対戦が待たれる。(スポーツジャーナリスト・生島淳)

AERA 2024年7月22日号より抜粋