秦始皇帝の兵馬俑(写真:Zoonar/アフロ)
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 映画「キングダム大将軍の帰還」が盛り上がりを見せている。その主人公が山﨑賢人さん演じる信(しん)で、仲間思いで勇猛果敢な人柄が多くの人を惹き付けている。史実においては、どのような活躍をした人物なのだろうか。

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 映画『キングダム』シリーズの中国史監修を務めた学習院大学名誉教授・鶴間和幸さんは、「秦王嬴政からの信頼は厚かった」を指摘する。将軍たちの史実を解説した新刊『始皇帝の戦争と将軍たち ――秦の中華統一を支えた近臣集団』(朝日新書)から、一部抜粋して解説する。

【李信の生涯と、『キングダム』よりも先の統一戦争後半の史実に触れています。ネタバレにご注意ください】

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李信(りしん)│統一戦争を戦った若き将軍

 李信は、秦王嬴政の統一前に活躍した若き将軍である。始皇一九(前二二八)年、王翦(おうせん)指揮の下、楊端和(ようたんわ)、羌瘣(きょうかい)が趙の邯鄲(かんたん)を数十万の兵力で総攻撃して趙王・遷(せん)を捕らえたが、李信は趙の北部の泰原や雲中を攻撃し、なぜか王翦の本軍とは別の動きをしていた。趙の李牧(りぼく)軍を北辺から牽制していたものと思われる。

 秦始皇本紀では始皇二〇(前二二七)年の秦王暗殺未遂事件後、嬴政は王翦に命じて燕を攻撃させ、翌年に燕都の薊(けい)を攻撃して丹の首を得たとされる。しかし刺客列伝によれば、李信に遼東に逃げる燕王と太子丹を追撃させ、燕王が自身で斬殺して献上する丹の首を得たという。

 王翦は燕の都を陥落させただけで帰還したが、若き李信は数千の兵力で王と丹を果敢に追った。ここでも王翦と李信の動きには距離が見られる。秦王嬴政は、年若く勇敢な李信を称えている。

 その後の始皇二三(前二二四)年、南の楚を攻撃するにあたって、嬴政は老将軍の王翦と李信に必要な兵力を尋ねる。このとき嬴政は三六歳で、同世代の李信は二〇万、老齢の王翦は六〇万と答え、嬴政は若い李信に委ねた。李信は蒙恬と二〇万の兵を率いて楚を攻撃した。結局楚軍に両者の軍は分断され、秦軍は敗北してしまった。秦王嬴政は王翦に兵を委ねることになり、楚を滅ぼした。

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老将・王翦との対立