落語家・春風亭一之輔さんの連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今回のお題は「年金」。
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新紙幣の発行が開始された。何日か経つのだが、まだ私の手元にはきていない。しかしまぁ私の耳に入ってくる感想としては、新紙幣の評判はあまり良くない。
「このキャッシュレス時代に今更変えてなんになる?」
「デザインどうなの?」
「ところでこの人たち誰なんだ?」
「何した人たちなの?」
一つ目、二つ目は私も概ね同意だが、あとは自分の無知を棚にあげて先人に失礼だぞ。
ざっくりしたことを言うと……渋沢栄一は平泉成さんのそっくりさんで、深谷ネギを美味しく開発した人だ。北里柴三郎はたぶんお医者さんに違いない。たぶん美容整形の。たぶん「昔の高須クリニック」みたいな。たぶん奥さんは「令和の長谷川町子」みたいな漫画家さんだろう、たぶん。津田梅子は何年か前までいた落語協会所属のお囃子のおばさんだ。メチャクチャ小言の多い人だったなぁ。元気にしてるかな。
あー、はいはい。私だってだいたいどんな人かはわかってますよ。ざっくり言っただけなのでご心配なく。
それにしても、あの方たちだって好きでお札になったわけじゃないだろう。遺族はOKしたかもしれないが、泉下では「おいおい、勘弁してくれよ〜」と思ってるはずだ。自分だったら絶対やだよ、お札に似顔絵描かれるなんて。だって他人様の顔に折り目つけて変顔させたりするヤツがいるでしょう。お金で人生踏み外したりする人にトバッチリで恨まれたりするでしょう。お年玉の封を開けた子供に「なんだよ! 柴三郎一枚かよ! しけてやんなぁーっ!!」とか陰で悪態つかれたりするでしょう。景気の良かった頃の全日本女子プロレスの物販のテーブルの下の段ボール箱に、山のように入れられて足で踏みつけられたりするでしょう。
新紙幣のお三方はこれからかなりストレスのたまる生活が待ってると思うが、どうぞご自愛いただきたい。福沢さんと樋口さんと野口さんはようやく引退出来るわけでさぞかしホッとしてるだろう。お疲れ様でした。