虫嫌いの母が子どもに近寄れず
アタマジラミは体長2~3ミリ。カニのような爪で髪の毛にしがみつくように寄生する。被害者は小学生以下の子どもがほとんどで、基本は毛髪の直接的な接触で感染する。長髪の女子に多い傾向がある。仲が良ければ接触も多いためうつりやすく、帽子やマフラーの共用でうつることもある。
矢口さんは「アタマジラミごときで、子どもを引き離してはならない」、と訴える。感染が心配なら、髪の毛が接触しないように束ねて遊べばいいという。
「幸い、アタマジラミは不衛生だからつくわけでないということは知られるようになりました。ところが、虫嫌いの保護者も多いせいか、『あの子と遊ぶな』『近寄っちゃダメ』と子どもに言うことが少なくない」
アタマジラミが寄生した自分の子どもに、近寄れなくなってしまう母親もいたという。
「保健所の窓口に子どもを連れて相談に来ても、子どもと離れて話をするんです。虫が苦手という方でした。『アタマジラミは手や衣服を伝わってうつることはないですから、大丈夫ですよ』と説明しても、ダメでした」
発生すると犯人捜しが始まる
兵庫医科大学の皮膚科学教授、夏秋優医師によると、アタマジラミは成虫が寄生してからかゆみを生じさせるまで1カ月以上かかるという。
「アタマジラミに限らず、吸血する昆虫は全て、血を吸う前に唾液腺物質を注入します。それが繰り返されることでアレルギー反応を獲得して皮膚炎が起こり、かゆみを生じるんです」(夏秋医師)
アタマジラミは成虫でも2~3ミリと小さく、毛髪の間を泳ぐようにすばやく移動する。そのため、一般の人が目視で見つけるのは困難だ。メスは1日5~10個、毛髪に産卵する。この卵がまたクセモノで、ぱっと見、「ヘアキャスト」という毛髪の周囲にちくわのようにつくフケとそっくりで、皮膚科医でもルーペで確認しないとフケと見誤ってしまうほどだ。
また、アタマジラミが寄生しても数カ月間気がつかないことがよくある。どこでもらってきたのか、誰にもわからない。
ところが、保育園や幼稚園、小学校でアタマジラミが発生すると、犯人捜しが始まる。
「あの子からうつった」と、うわさが立つ。園や学校に「来させるな」と、声が上がる。
矢口さんによると、保育園や学校側が保護者から「保育園でアタマジラミがうつったのだから、園の責任で駆除しろ」「治療代を出せ」と要求されることも珍しくないという。