※写真はイメージです。本文とは関係ありません(Andriy Onufriyenko/ iStock / Getty Images Plus)
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 伊藤忠の商社マンからアメリカの通信技術企業の社長やソフトバンクの副社長を勤めた松本徹三さん。その彼が82歳にして、新しいベンチャー起業を立ちあげるという。ふつうならとっくに引退して、悠々自適の生活を送ってもいい年齢。それなのになぜあえてリスクだらけの道に進むのか?

 新刊『仕事が好きで何が悪い!』(朝日新書)には年齢を重ねてこそ輝ける人生の歩き方が示されている。どうしたら生き生きした老後が送れるのか、松本さんに聞いてみた。

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 定年を迎えたら悠々自適の生活をしたい。誰もが夢見るリタイヤ後の生活ですが、実際に会社をやめてみると、そんな生活などどこにもなかったと気づく人が多いのではないでしょうか。

 何十年も会社員として生活してきた人が、突然自由になると、何をしていいかわからない。最初はあれもこれもとやってみますが、そのうち空しくなってしまう。

 とくに権力を持って人を従えてきたり、肩書で仕事をしてきた人は、それらがなくなった時、何者でもない自分のありさまに呆然とするでしょう。

 そもそも現役を引退して悠々自適で暮らそうという発想自体を考え直してもいいのかもしれません。せっかく長く生きて、経験を積んだのですから、それを世の中にお返しするという考え方もあっていいのではないでしょうか。

 もちろん「おれはそんなことをしたくない。今まで会社や家族のために生きていたのだから、これからは自分ためだけに悠々自適に生きたい」というのならそれでもかまいません。しかしその道を選択したのなら、「孤独だ」とか「つまらない」とか「生きがいがない」など文句を言わないことです。

 ところで、世の中のためにお返しするとして、その能力がない、と思う人もいるでしょう。人は年を取ると能力が落ちると言われている。でも本当にそうでしょうか。

 私は年を取ったほうが能力は増すと思っています。

 たしかに体力は落ちる。若い時のように駅の階段を2段飛びして電車に駆け込むなどという芸当はできなくなる。でも頭のほうは衰えません。なぜかというと人間の頭はコンピュータと同じで、ロジックとメモリーで成り立っているからです。

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「歳をとると記憶力が落ちる」は誤解?