ただその形態は、たとえばそろばんが計算機に、計算機が表計算ソフトに代替されたこと、タイプライターがワープロに、ワープロがパソコンやタブレットPC+ソフトに代替されたようなゼロサムのかたちではないと考えられます。
 

AIの能力はすぐれた資料づくり

 具体的には、「意思決定」に至るまでのプロセスがAIに代替されます。「情報を収集する」「情報をまとめる」といった作業です。

 個別のシチュエーションを思い浮かべてみましょう。企業でなんらかの意思決定を行う際、資料や企画書を作るとします。この仕事には、作る目的や使い方という意思と、より質のよい資料を作るための能力が必要です。

 AIはこのうち、より質のよい資料を作るための能力に長けています。資料を必要とする意思決定者が目的や用途を指定するだけで、広範囲のデータを素早く検索し、たちまち文章や図表にまとめることができます。一度できあがったものを修正していく過程を重ねたとしても、これまでの数パーセント程度のコストと時間で、これまでよりも満足度の高い資料ができあがるはずです。

 では、決定権を持つ人と、いままでその人を支えていた10人のスタッフがいた職場では、どうなるでしょうか。情報を収集し、まとめるには、今後はAIとそれを操作する1~3人くらいのスタッフで済んでしまうでしょう。では、残りの6〜8人のホワイトカラーはどうなるのか、という話なのです。

 2013年にオックスフォード大学の研究者、マイケル・オズボーン氏などが発表した論文「雇用の未来」で、アメリカの労働者のうち、47%の職業がAIによって消えるかもしれないと予想されたことが大きな話題になりましたが、その具体的な姿は、おそらくこういったかたちになると考えられます。

 しかし、本当に必要なのは、資料ではなく「意思決定」です。AIは、その事実を明確にしていくことになります。そして多くのホワイトカラーが、いままでの「頭脳労働者」の感覚を捨て、自ら意思決定する側に回らなければならない理由はここにあります。

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AIが新たな需要を生み出すかもしれない