
ライターになりたい、ライター一本で生きていきたい。そういう方たちの前で話す機会も増えてきたんですが、でも「それが目的?」とは思います。ライター「だけ」で食うのが目標ですか?
仮に首尾よくライターで一本立ちできたとして、人間は欲の生きものですから、次から次に、欲望が出てくる。自分の欲望にさいなまれる。いや、自分の欲望でさえないんです。
Le désir de l’homme est le désir de l’Autre.
人間は、他者の欲望を欲望する。
ラカンの言うとおりです。大文字の他者(l’Autre)、つまり近代社会や資本主義という経済システムが欲望するものを、人は欲してしまう。大文字の他者(l’Autre)とは、言語でもあります。人間を人間たらしめるもっとも基本的なシステム=言語。言語が表象するモノやコトを、人は欲してしまうんです。
成功したい。セレブになりたい。他者に、うらやましがられたい。だから、ライターとして生きていけるようになっただけでは不足になる。本を出版したい。講演会をしたい。ピュリツァー賞を、ノーベル賞を、とりたい……。
無際限に広がっていきます。これは、苦しい人生です。
のめりこむほど好きなことを見つける
そうじゃない。「これがなければ生きていけない」と思い詰めるほどにのめりこむ好きなものがあって、おカネや食べ物などある程度の対価が得られるならば、もう言うことないじゃないか。
むしろ問題は、死ぬほど好きなことをどう見つけるかだ。表現者としての職業人になる。
わたしたちがめざすのは、そこじゃないかと思います。少なくともわたしは、「いいライターになる」のが目標です。
思い返すと、わたしは二十代のころからそう口にしてたんですね。いいライターになりたい。「いい」の意味は、まだ自分で分かっていなかった。ライターを続けるうち、だんだん、意味が深化してきた。
良く、生きる。
善く、生きる。
好く、生きる。
『三行で撃つ』というわたしの前著に、そこは詳しく書きました。幸せの大三角のひとつの頂点は、〈仕事〉です。〈仕事〉が楽しい人が、ハッピーな人です。〈仕事〉をおもしろがれる人が、ナイスな人になります。
働くことに真摯な人。自分に対して誠実で、他者に対して親切。自分の「軸」を持っている。自分の「好き」を知っている。善良な人。好人物。お人好し。〈仕事〉に一生を賭している人は、いい人です。